11 魔力0おっさん、仕事を遂行する
剣聖を狙っている者がいる。排除しろ。
それがギルドマスターのリーゼンから受け負った仕事だ。彼は旅をしている最中にわざわざ魔法で通達を送ってきたのだ。
頼みたい仕事があると。
この仕事をギルドを通してオルトに回してきたのは、十中八九聖十字騎士団だろうとオルトは考えている。
そこらの賊を捕える、もしくとは討伐するだけならそれこそ騎士団を動かせば良い。だがそれが出来ないのだ。
たとえば剣聖を狙っているのが内部の人間だとか。
もしくはお偉いだとか。
恐らくはそんな理由だろう。
「師匠、何故そんなに怖い顔をしているのですか?」
ふと、隣を歩くシリカが不思議そうな顔をして覗き込んでくる。
「ん、何でもないよ」
「そうですか? 絶対嘘ですね、せっかく私とデートしてるんですから、今日は私だけを見ててください」
「シリカは本当に人懐っこい子だね」
「ふふっ、師匠にだけですよ」
そう言ってシリカが顔一杯の笑みを送ってくる。
本当に可愛い子だ。
これがシリカじゃなかったらオルトは堂々と飲みに誘っている。
そんな彼女を狙っている者が居る。
師匠面をしたかった訳ではないが、オルトはシリカに忠告した。
「シリカ、君は普段も帯剣してるのかい?」
「してますよ! 剣聖ですからね!」
「自宅ではどうなのかな」
「流石に家では剣なんて持ち歩きませんよ」
「そっか、じゃあ今日から肌身離さず持っておくように」
「う~ん、まあ、師匠がそう言うならしょうがないですね」
シリカは強い。
竜をも討伐してしまうのだから、そこいらの者が束になったところで敵いもしないだろう。
だが流石に寝込みを襲われれば分からない。
だからオルトはいつでも剣を取れるようにしておけと言って聞かせる。
剣聖となったシリカならば、どんな状況でも対応出来るとオルトは勝手に考えていたが、先日の手合わせと今日の様子を見て、彼女はまだまだ経験が足りないということが分かった。
だから忠告する。油断するなと。
心配だ。
流石に16歳そこらの小娘に向かって、お前を狙ってる奴がいるからとはオルトも言えなかったが。
その後、一緒に食事をとったりと共に時間を過ごしている内に夜になり、オルトはシリカに別れを告げる。
「じゃあね、シリカ」
「はい、師匠! おやすみでっす!」
「今回は別れを渋らないのかい?」
「あれれぇ、もしかして渋って欲しかったんですか?」
ニマ~と目を細めて笑みを浮かべるシリカがこちらを見上げてくる。色々と成長したようだが、生意気さも成長してしまったようだ。
「ふざけてないで、子供はもう帰って寝なさい。俺はもう、君に散々連れ回されて疲れてるからね」
「それは誠にごめんなさい。それでは師匠、おやすみです!」
拳を左胸に当ててシリカが敬礼する。
そして礼を解けば、ぶんぶんと手を振って走り去って行った。
オルトが人里に滞在するのは3日間だけ。
今日がその最終日だ。
てっきりシリカが6年前と同じように別れを渋るんじゃないかとオルトは考えていたが、どうやらそうではなかったらしい。
これもまた彼女が成長した証なのだろう。
「さて、仕事しなきゃな」
オルトは王都に滞在している間、色々と調べていたことがあった。
人々の視線だ。
シリカを狙っている者が居るとするならば、いつ行動を起こすかは別として、必ず彼女の動向を常に伺っている筈だ。
幸い、滞在期間の2日目3日目は、ほとんど常にシリカが隣に居てくれたのでお陰で仕事が捗った。
聖十字騎士団でシリカと手合わせをしていた時も。
街中でシリカに連れ回されていた時も。
必ずオルトとシリカに視線を送っていた者が居た。
シリカの後輩だいう騎士達二人組の内の一人、アベルだ。
彼からは薄っすらと血の臭いがしたので恐らく間違いない。
アベルがシリカを狙っている者、もしくはその一味の一員だ、
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