10 魔力0おっさん、魔力を測られる
デートだなんだとシリカに連れ回されながら街の散策を続けていると、
「あ、シリカ様! ご苦労様です」
「ご苦労様です!」
街を巡回していたのであろう聖十字騎士団の団員二人組が、ばったりと出くわしたシリカに敬礼していた。
「うん、君達もお勤めご苦労様です。頑張ってね」
などとシリカが彼らを労うと、今度はオルトの方へと騎士達の視線が向けられた。
「な、なに?」
「剣聖様のお師匠様ですね、昨日のお手合わせ、見てました」
「私もです。あの剣聖様が手も足も出せなかったその腕前、感嘆の一言ですッ」
なんて持て囃されてしまう。
オルトは今までこんなことを言われた経験がなかったので、騎士達への対応に困ってしまう。
更には、
「こ、今度、私にも剣を教えてもらえませんか? 剣聖を鍛え育てたというその指導、私も是非にッ!」
とまで言われてしまう始末。
「駄目で~す!」
すると、シリカが騎士達とオルトの間に割って入って来た。
「師匠はロッカスに3日間しか滞在しないので、この3日は全部弟子である私がもらうことに決まってるので!」
「そんな! 卑怯ですよ剣聖様!」
「そうだそうだ! ずるいです!」
「駄目だったら駄目で~す」
別にそんな決まりがある訳でもないし、滞在期間の全てを譲ると約束をした訳でもないのだが、シリカは駄目ですの一点張りで譲らなかった。
「じゃあ今度、剣聖様が手合わせしてくださいよ!」
「そうだ! 責任取ってくださいよ!」
「は、はぁ!? ちょっと君達生意気過ぎませんか!?」
結局諦めた騎士達が責任の所在を天下の剣聖に求め始めた。シリカも売り言葉に買い言葉と言い返し始める。
そんな様子を見て、オルトはなんだか胸が暖かくなってくる。
「仲良さそうだね」
「当たり前ですよ。彼らは同じ騎士団の仲間ですからね。この人達は後輩君なんです」
その後輩という騎士達二人組は片方がアモン、もう片方がアベルという名前らしい。どっちも兜を被っているので声で判別するしかない。
兜を脱いでくれない? と言うと断れてしまった。
「そっか、後輩かぁ」
どうやらシリカはこっちでも上手くやっているようだ。
まあ元居た故郷でもたった1年ちょっとしか面倒を見ていなかったので、感慨深く思うのもおかしい話なのだが。
「あ、そうだ。剣聖様のお師匠様。ちょっとこれを見て貰えますか?」
と、騎士の一人──恐らくアベルがふと思い出したかのように、一本の短刀を懐から取り出す。
「なんだい、これ」
「握ってみてください」
「まあ良いけど」
その短刀の柄には妙な装飾が施されていた。
見慣れない文字が刻まれ、鍔には青色の石ころがはめ込まれている。
「実はこれ、手に取った者の魔力を調べてくれる『魔導器』なんですよ」
「え?」
なんだって?
「お師匠様ほどのお人ともなれば、一体どれほどの魔力をお持ちなのか気になってしまいまして。この短刀は魔力量に応じて剣身が黒く染まるんですよ」
ははは、と騎士が冗談めかして笑っている。
などと騎士が説明している内に、鍔に飾られていた青い石が光を発し始めた。これはその効果が発動する合図だろう。
非常にまずい。
魔力0なのがバレる。
しかし魔力を測ると言われてすぐ逃走するのも、測られたらまずいと言っているようなものだ。
なんとか誤魔化すしかない。
「んん? い、色が全く変わりませんね」
「み、みたいだね」
やはり騎士が説明したように剣身が黒く染まることもなく、ただ銀光を放っているだけであった。
オルトは魔力を持たないので当然だ。
まずいことになったとオルトはその場をどう誤魔化そうか考えていると、
「アベルもバカですねぇ、師匠の魔力をそんなおもちゃで測れる訳ないじゃないですか」
隣のシリカが助け船を出してくれた。
「え? そ、そうなんですか?」
「じゃあ私の魔力を測らせてみましょうか?」
そう言って今度はシリカが『魔導器』と呼ばれた短刀を手に取ると、剣が黒く染まり上がることもなく、何故か剣身がパンッ! と爆発四散した。
騎士達が言葉を失う。
ついでにオルトも言葉を失った。
「ね?」
何が? とオルトは思った。
「ほら、私が握っただけでも壊れちゃった。師匠が握ったらそりゃ機能不全も起こしますよ」
「ちょ、ちょっと待ってください。壊れるって知ってるなら触らないでくださいよ。これ結構良い値段するんですから」
「いきなり師匠の魔力を測ろうとした罰です。後で弁償してあげるからそれで許してくださいね」
「そ、それなら良いんですけど」
どうやらシリカが都合の良いように解釈してくれたようだ。
そんなシリカの説明で騎士は納得してくれたようで、お陰で魔力0であることがバレずに済んだ。
オルトはそっと胸を撫で下ろす。
いくらなんでもトラップ過ぎて驚いてしまった。
「シリカ、ありがとな」
「ん? 何がですか?」
「いや、こっちの話だよ」
訳が分からないといった様子で、シリカは小首を傾げていた。
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