06 剣聖シリカ、おっさんと手合わせする



 オルト・テスラは何かを隠している。


 アルフラーレス王国の首都──ロッカスに来たシリカは、剣聖の権限を活用して『剣撃魔法』についてあらゆることを調べた。


 しかし何も分からなかった。

 これはやはり、彼のみが扱う魔法だ。


 何故、こんなにも強力な魔法を師匠しか使わない。

 師匠は本当に何者なのか。 


 シリカはずっとそれが知りたかった。


 最初こそシリカは師匠と再会を果たしたいという純粋な気持ちだったが、調べている内に好奇心が湧いてきてしまった。


 どうして山の中で暮らしていた?

 どうして名前を隠している?

 

 どうして彼の『剣撃魔法』からは魔力を感じられなかった?


 逃げ場の無いシリカのテリトリー内──『聖十字騎士団本部』でそれらを探れば、答えに辿り着けるかも知れない。


 だからシリカは再会したオルトをここに連れてきた。

 この機会を逃すつもりはない。全てはオルトを知るために。


 以前、シリカはオルトにこんなことを言われたことがある。


── 『シリカ、このままだとお前は俺に依存してしまう』

 

 と。

 これは改善されるどころか、むしろ悪化してしまっていた。


 6年間も会えなかった師だ。

 また会いたいと願う気持ちはより強くなり、欲と化した。


「……師匠。私なら隠していることを全て受け止められます。私にだけ、本当のあなたを曝け出してください」


 そう願った次の日、シリカはオルトと再び剣と剣を交える。


 まず第一の目標は、オルト・テスラを手に入れることだ。






「ここは騎士団の修練場です。日々、騎士達が鍛錬を重ね、己の剣技を高め合う場。今の私達にはピッタリだと思います」


「う、うん……、そうみたいだね」


 聖十字騎士団本部内に建てられた大きな修練施設。


 ここは魔法を用いた剣技を扱う騎士達の為に作られた建造物であり、壁や床などには魔法を受け付けない結界が施されている。


 耐久性に優れているという訳だ。

 存分に暴れることが出来るだろう。


「これは手合わせ。流石に真剣を使う訳にもいきませんので、互いに木刀を使いましょうか。ふふっ、木刀だなんてオルト様、6年前を思い出しますね」


「う、うん……、そうだね」


 先ほどからオルトがぎこちない返答を繰り返している。


 それもそうだろう。

 この修練場には今、剣聖に剣を教えたという師匠の剣技を、ぜひにも見学したいという騎士達がたくさん集まっている。


 パレードでは注目が集まると急に姿を消したオルトだ。こういった場は慣れていないのか、それが原因で緊張しているだけなのかも分からない。


 それとも何か、別の理由があるのか。


(あなたのこと、もっと教えて貰いますよ)


 オルトに木刀を手渡したシリカが無邪気にも悪い笑みを浮かべる。


 シリカには自主性がないとして、オルトは6年前にはこれ以上は何も教えないと不器用な教育を施した。


 その結果、シリカの『教えて教えて』は『知りたい知りたい』に変わった。


 今のシリカは行動力の化身である。


「さあ、構えてください。あなたの剣を今一度、私にご教授願います」


 シリカが左腰に木刀を添えて抜刀術の構えを取る。

 その瞬間、野次馬の騎士達から『おぉっ』と感嘆の吐息が漏れた。


「うん、まあ……せっかくの機会だしね」


 観念したように呟く。


 対面に位置するオルトは木刀の柄を握る両手を上段に構え、剣先をシリカへと向ける奇怪な構えを取っていた。


 右足を半歩下げて半身を切り、腰を僅かに落として重心を下に向ける。


 剣聖となって幾重もの達人と剣を交えたシリカでもあまり見ない構え方だ。だが、その構えには一部の隙も無い。


 下手に斬り込めば、斬って捨てられる。

 そんな確信がシリカにはあった。


 だが負けない。

 シリカは今日この場でオルトを完膚なきなきまでに叩きのめすつもりだ。


 彼はまるで隠れる様にして山の中で暮らしていた。

 きっとそれは、オルトが自身の身を守るための術だったのだろう。


 注目を浴びることを嫌う彼の姿勢を見て、シリカはそう確信している。


 だからこそ勝って証明する。

 シリカはもう、守ってあげられる存在なのだと。


(あなたがもう二度と、隠れるような生活を送らなくても良いように)


 旅なんかしなくても良い。

 

「行きますよ、オルト様ッ!」


 シリカがオルトに斬り掛かる。


──しかし次の瞬間には、シリカは床に膝を付いていた。


 見上げれば、首元に木刀を当ててくるオルトがこちらを見下ろしている。


「まずは一本だね、シリカ」

「そ、そんな……」


 

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