1章 剣聖──神速のシリカ・オルキス

01 魔力0おっさん、都会に行く



──6年後。



 10才で竜をも討伐して見せたシリカに刺激を受けたオルトは、この6年を旅人として過ごしていた。


 その間、凶悪な竜と戦うハメになったり、別の竜に何故か懐かれたり、オルトが忌み子であることを知った魔女達が追いかけてきたり、等と色々なことがあったが、


「ここが都会か~」


 現在のオルトは今、アルフラーレス王国の首都──ロッカスに訪れていた。


「目に入る建物全部が高いな」


 自身がおっさんになるまで山暮らししていたからなのか、それともよく田舎の宿に寝泊りしたり野宿をするからそう思ってしまうのか、都会の建造物の高さに驚いてしまう。


 メインストリートを通る通行人の多さ、その雑踏と喧噪にも圧倒される。


 なにやら今日は『聖十字騎士団』の行進──パレードがあるとのことだったので、より一層人が多いのだろう。


 なんでも13才で剣聖となった少女が、国を騒がせている邪竜を討伐したとのことだ。


 世の中はやはり才能で回っているらしい。

 7年前にオルトの家を訪ねて来たシリカという少女もそうだった。


 あの子もまた10歳で竜を討伐する天才だ。


 居るのだ。

 世の中にはこういう才覚溢れる若者が。


 オルトは旅人となった6年間で、こういった子供達と何度か遭遇している。だから余計にそう思ってしまう。


「今年40の俺にはまったく耳が痛い話だよ」

「おめぇも大概化け物だよ、オルト」


──冒険者ギルド。

 そこで長をやっているギルドマスターからそんなことを言われてしまう。


 この男の名前はリーゼンと言い、オルトが幼少期に半年だけ過ごした孤児院で、共に暮らした幼馴染とも言える男だ。


 今回、オルトがこの王都に訪れたのは、リーゼンからぜひ来てくれとの連絡を受けたからだったりする。


 なんでも仕事を請け負って欲しいらしい。


「久しぶりの再会なのにいきなり化け物呼ばわりかい」

「オルト、おめぇは昔っからそうだったからな」


 私室に通されたかと思えばいきなり化け物呼ばわりとは礼儀もくそもない。しかしオルトは仕事を回して貰う立場なので言い返すこともしない。


「リーゼン、その剣聖様ってどんな人なんだ?」

「なんだ、気になんのか」


 テーブルに並べられた書類に目を通しながら、リーゼンが何故かこちらの手の平を差し出してくる。


「え? 情報料取るの?」

「冗談だよ」


 へっへへ、とリーゼンが口を曲げて笑う。

 昼間から酒でもやってるのかとオルトは思った。


「えらい可愛くてよ、まあそりゃ評判よ。内の若い衆も今回のパレードでひと目見たいとか抜かして、仕事もほったらかして出て行っちまったよ」


「いや、見た目とかそういう話じゃなくて……あるでしょ、ほら、内面とかさ」


「あんまり関わったことねぇから知らねぇな」


「それで金を取ろうとしたんだ」


「だから冗談だって言っただろ」


 リーゼンはあまり関わりを持っていないらしいが、その剣聖様は一度この冒険者ギルドに訪れたことがあるらしく、何でも『人探し』を頼んで来たらしい。


 曰く、30代後半もしくは40代前半の男。

 曰く、茶髪であり、身長は180前後。

 曰く、剣士である。


 とのことだった。


「……俺だったりして」

「はぁ?」


 特徴と一致しているのでオルトは若干淡い期待をしてしまう。


 別に可愛いと評判の女の子とどうこうしたいという訳ではなく、山暮らししていたので人生に女っ気が全くなかったので、一緒にお酒でも飲んでくれたらなと少し思っただけだ。


 しかしリーゼンは眉間に皺を寄せて怪訝な顔をしていた。


「馬鹿言ってんじゃねぇ。剣聖様がどうしてお前を探すんだよ」

「まあ、そうだね」

「仮に探してたとしても、目的は討伐だろうな」

「あまりそういうことは言わないで欲しいかな」


 孤児院で共に暮らしたことのあるリーゼンは、オルトが魔力0の忌み子であることを知っている。


「それに剣聖様が提示した条件はまだあるぞ」

「へぇ?」


 曰く、とてもカッコイイ

 曰く、優しくて面倒見が良い性格である

 曰く、目がキリっとしていて見惚れる

 曰く、きっと女性に好かれる筈だ

 曰く、だから早く探してくれ


 とのことだった。


「なんだこれ」


 なんだこれとオルトは思った。


「オルト、お前さんはとてもじゃないが、若い女に『カッコイイ』とか言われるタイプじゃあねぇよな。優しくて面倒見が良いかって言われるとよく分からねぇし」


「そんなことないと思うんだけど」


「死んだ魚みてぇな目してるしなぁ」


「そ、そんなこと……そうかなぁ」


 オルトは野宿することが多いので夜襲を警戒してあまり眠らない。なので目元には若干クマが出来ているので、よく目が死んでると言われる。


 これをキリっとしていて見惚れると称する女が居るのならば、目が腐っているかひどく恋に落ちているかのどっちかだろう。オルトもそう思う。


「なんでもその男は師匠だったらしいぜ。すげぇよな、邪竜を討伐する剣聖様を鍛えた師匠が居るなんてよ。今、街中じゃ結構な話題になってるぜ」


「へぇ、凄い人も居るもんだね、俺も会ってみたいよ」


 剣聖は英雄の証だ。

 生半可は実力者に与えられる称号ではない。


 それを与えられた娘を鍛え育て上げた者が居るとなれば、街で大きな話題になるのも当然だろう。


 きっとその師匠も相当な実力者に違いない。


「名前はなんて言ってたんだい?」

「それがよ、剣聖様も知らねぇんだとよ。だから探してるらしいぜ」

「ふ~ん? またおかしな話もあったもんだね」


 オルトは忌み子なので旅先で知り合った者だとしても軽々しく名乗らない。剣聖の師匠も何か事情があって名乗らなかったのだろうか。


 想像が膨らむばかりだ。


「ひとまず剣聖様が気になるってんなら、パレードに行ってひと目見てこいよ。オルト、お前さんに回したい仕事の中には、剣聖様に関わる物もあるからな」


「そうか、仕事回してくれて助かるよ。ちょうど路銀が尽きてて困ってたんだ」


「お前さんの実力は俺も理解してる。だからこの街に呼んだんだ。完璧にこなしてくれよ」


「分かった」


 リーゼンにいくつかの仕事を見繕ってもらい、オルトは件の剣聖を見に街へ繰り出すことにした。


  

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