03 魔力0おっさん、極致の剣技を見る
シリカが家に来てから3ヶ月が経過した。
この頃になると教えている剣の腕前もだいぶ上達し、元々の飲み込みの早さもあってか飛ぶ斬撃の精度が飛躍的に高まっていた。
「師匠、見ててください」
「うん」
いつも剣を教えている庭にてシリカが剣を構える。
木刀を腰に据えて、重心を低く保つ抜き身の姿勢を取った。
居合切りの構え。
抜刀術だ。
シリカの自己流の構えも良かったが、この構え方はオルトが彼女の剣技に合わせて矯正させたものだ。
「──せあッ!」
シリカの木刀が空を切り裂いた。
次の瞬間、遠く離れた木がその胴体中央を木っ端微塵にし、ズズンと音を立てて地に倒れる。見事としか言いようがない。
わざわざ構え方を改めさせた甲斐がある。
「う~ん……、納得がいかない」
しかしシリカはどこか納得のいかない様子だった。
「師匠の剣撃魔法はもっとこう、スパーンと鋭かったっていうか……、シリカみたいに力任せみたいな感じじゃなかったっていうか……、何でだろう?」
どうしてなのか教えてください、とシリカが駆け寄ってくる。
「じゃあ肩の力を抜いてみたらどうかな。シリカは剣を構えると変に力む悪癖があるのかも知れない」
オルトが身に付けた剣技は全て誰に習った訳でもない自己流なので、不慣れながらもシリカにアドバイスしていく。
「肩の力を抜く? ……そ、そっか!」
シリカはそんな不慣れな助言に自身の欠点を掴んだようだった。
再びシリカが居合切りの構えをとる。
右足を曲げ、左足を後方へ伸ばして重心を落とす。
左腰に当てた木刀に左手を添え、剣柄を右手が柔らかく包み込む。
「フゥー……」
シリカがゆっくりと息を吐き、肩から降ろした力を腰に、脚に、つま先へと流して抜刀への準備を整える。
力の抜き方、流し方が流麗だ。
極致。
という言葉がオルトの頭に過る。
「──せあッ!」
キィン!
と空間が切り裂かれた。
剣撃の『音』が聞こえたのはその瞬間だけ。
後は無音の斬撃が見渡す限りの木々をなぎ倒していく。
シリカが放った飛ぶ斬撃は、どこまでも飛んで行った。
「ははは、本当に凄い子だな、シリカちゃんは」
シリカは今年で9才だと教えてくれたのだが、その歳で自身とオルトの剣技を比べて『鋭さ』が違うと見抜いていた。
それにちょっとした助言だけで剣技を一段階押し上げてしまう。
オルトはもう驚くしかない。
彼女こそが天才と呼ぶ値する才能の持ち主だ。
呪われた忌み子である自分とはまさしく立っている場所が違う。
「……ッ! やった、師匠! どうでしたか! 私の剣撃魔法!」
「うん、すごいね。これでもうこの魔法は完璧だね」
「えへへ~、師匠のアドバイスのおかげです!」
シリカが屈託のない笑みを送ってくる。
思わずオルトも笑みを溢したくなる笑顔だった。
今はまだ木刀で剣を教えているだけだが、シリカが真剣を握ったら一体どうなってしまうのだろうか。
オルトはそれが恐ろしくもあり、楽しみでもあった。
そしてもう一つ、オルトが恐れていることがある。
それはシリカが何でも『教えて教えて』とおねだりしてくることだ。
このままでは彼女は自分に依存してしまうかも知れない。
それが唯一の気掛かりだった。
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