02 魔力0おっさん、天性の才能を知る
シリカが家に来てから10日後。
体調も良くなってきたので、オルトは約束通り剣を教えてあげることにした。
「師匠ってすごい剣技を使うって聞いたんですけど、どんな剣技を扱えるんですか!? 私、知りたいです!」
庭に出て子供用の木刀を持たせてあげると、シリカが目を輝かせながらそんなことを聞いてくる。
本当にどこの誰から聞いたのだろうか。
たまにこの森に迷い込み、何日かだけ面倒を見てあげた人達が言伝しているかも分からない。
「あの、師匠になるつもりはないからね?」
「え!? 剣を教えてくれないんですか!」
「剣は教えてあげるけど」
師匠呼びがくすぐったい。
ただ、オルトは忌み子である自身の呪われた名前を教えていないので、今は師匠と呼ばせておいた方が何かと都合が良いだろう。
ひとまず、シリカにどんな剣技を使うのかと聞かれたので、オルトはさっそく研鑽の末に身に付けた技術を見せてあげることにした。
「シリカちゃん、君は魔法を知っているかな?」
「知ってます! 私も少し使えますよ!」
シリカが元気よく手をあげると、手の平から『パチチッ』という奇妙な音が聞こえた。
きっと静電気の類だろう。
どうやらシリカは『雷』の魔力を微量ながら扱えるようだ。
オルトは子供ながらに魔法の素質を見せるシリカに感心する。自身が魔力0なので、若干の羨望を交えながら。
「へぇ、すごいね」
「でしょでしょ!」
「それじゃあ、僕が今から魔法を交えた剣技を見せてあげるから、よく見ておくように」
「魔法を交えた、剣技?」
「うん。ベタに【剣撃魔法】って言うんだけど」
そう言ってオルトは直剣の剣柄を両手で握り、上段に構えて剣先を近くにあった木に向けた。
オルトは魔力を持っていない。
それが原因で忌み嫌われて故郷を追い出されてしまった。
なのでオルトは自身の剣技を【魔法】に見えるまでに磨き上げ、それを【剣撃魔法】と称することで、自身を魔術師であると偽っていた。
「──ふんッ!」
オルトが構えた剣を振り落とす。
すると斬撃が飛び、木が袈裟斬りにされて切り落とされた。
剣の間合いを完全に無視した一撃だ。
近くで見ていたシリカが目を丸くしている。
今のは純度100%の剣術であったが、彼女の目にはまさしく魔法に見えたことだろう。だからこそオルトは自身を魔術師として偽れる。
「私も! 私もそれやりたいです!」
「そうだね。出来るまで教えてあげるから、まずは木刀を構えてみようか」
「うん!」
飛ぶ斬撃を見て感激したシリカが剣を構えた。
「ん?」
シリカが剣を構えた姿を見て、オルトは少しだけ嫌な予感がした。
どこで覚えてきたのか重心を落とし、半身を切って正面に剣先を据えるシリカの姿は、剣士のオルトから見てもサマになっている。
お手本としてオルトはまず剣の構え方を見せてあげたのだが、シリカはそれに習わず、既に自身に最適な構え方をとっている。
「その構え方……、シリカちゃんってどこかで剣を教わったことあるのかい?」
「ううん? ないですよ? でもこうした方が良いかなって」
「そ、そっか」
「それじゃあ見ててください師匠!」
ふぅ、とシリカが息を吐き、剣柄を握る両手に力を込める。
すると辺りの空気がピリリと引き締まった。
「おりゃっ!」
気の抜けるような掛け声だったが、シリカが木刀を振るうと、斬撃が飛んで近くにあった木に亀裂が走った。
「……すごいな」
シリカの斬撃が飛んだ。
「シリカちゃん、もう1回やってみて」
「え? だ、駄目でしたか?」
師匠みたいに上手く出来ないなぁ、なんてしょんぼりするシリカがもう一度木刀を振るうと、斬撃が飛んで今度は木に切れ込みが生じる。
「へぇ」
オルトは思わず感嘆の吐息を漏らす。
シリカが握っているのは木刀だ。
それを振るっても普通は斬撃として成立しない。
なのに斬撃が飛んだのだ。
シリカの振るった木刀から。
「外の世界にはすごい才能を持った子が居るもんだなぁ」
威力はまだオルトには遠く及ばない。
だが、シリカは【剣撃魔法】を一度見ただけで習得してしまった。
オルトは彼女がこの先どう成長するか楽しみになった。
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