剣聖や英雄達に『弟子面』された魔力0おっさん、無事に伝説のおっさんになる

ラストシンデレラ

序章 未来の剣聖

01 魔力0おっさん、少女を家に連れ込む



 魔法は女神の加護、いわば寵愛を受けた証とされている。


 魔術師だけでなく一般人まで魔法を操るそんな世界で、魔力のない子供が生まれてきたら一体どうなってしまうのか。



 オルト・テスラはまず、両親にすら見放された。


(魔力なし……か。呪われた子だ)

(うちから忌み子が生まれてくるだなんて……)


 更には周囲からも忌み嫌われた。


(魔力無しは女神様から見棄てられた存在。あんたは居ちゃいけない存在なんだよ)

(その呪われた体をこっちに近付けるなッ!)

(この村から出ていけ。そうしてくれるなら後は何もしない。それが今出来る俺達の最大の慈悲だ)


──『魔力0』

 たったそれだけで散々な目にあった。


 村から出て行けば命までは取らないと言われてしまったので、オルトは忌み嫌われた故郷から遠く離れ、誰も居ない森の中で暮らすことにした。





 それからしばらくが経ち、オルトが32になった頃だった。



「私に……、剣を、教えてください」

「えぇ?」


 玄関の扉を開けると、ボロ雑巾みたいな女の子が立っていた。


 ボサボサの金色の髪。

 翡翠色の目はどこか復讐心に駆られている。


 見たところまだ10歳にも満たない子供だったが、まず間違いなく訳ありだろう。

 

「どうして俺に剣を教えて欲しいのかな」

「聞きました。この森に……、すごく強い剣士が居るって、だから」

「誰から聞いたのかな。まあ、とりあえず入りなよ」


 身に着けている衣服までボロボロな少女をとりあえず中に入れ、オルトはまずその小汚い身なりをどうにかすることにした。


 風呂に放り投げ、植物から作った石鹸で全身を洗い流す。

 

 体のあちこちに傷があったので、これも植物から作った傷薬で手当し、親切な放浪商人から安く譲って貰った包帯などを巻き付ける。


 するとどうだろうか。

 ボロ雑巾から可愛らしい少女に変貌を果たした。


 きっと元々は良い身分にあったのだろう、金色の髪の毛はまるで金糸の様に、翡翠色の目はまるで宝石の様だった。


 傷だらけということに目を瞑れば、貴族階級のお嬢様に見えなくもない。


「ほら、まずは食べて栄養を付けなきゃね」

「……ッッ!」


 少女は少し痩せこけており、細い手足を見るに軽い栄養失調が見て取れる。きっとお腹が減っているだろう。


 なので身なりを整えた後、特製のシチューを出してあげることにすると、


「あ、ありが……と、ありがどう、ございます……うぅ」


 目元に涙を浮かべながらシチューにがっついていた。

 どうやら表に出さなかっただけで、空腹が限界に近かったらしい。


 この少女はそんな状態で森を歩き、助けてくれるかも分からないオルトの家を目指した。


 強い子だなぁ、とオルトは少女にそんな印象を抱く。



 そして夜になり、急遽こしらえたベッドに寝かし付けてあげると、少女は困惑しているような視線をオルトに送って来た。


「……何も、聞いて来ないんですか?」


 明らかに訳ありの自分に対し、特に何も聞いて来ないオルトを不思議がっている。一応、感謝の気持ちはあれど子供なりに警戒しているのだろう。


 だけどオルトはあえて何も聞かない。


 魔力なしの忌み子であるという訳ありを抱えているのは、自分も同じだったからだ。


 気持ちは痛いほど分かる。


「うん、聞かないよ。君も辛いなら無理に話さなくて良いからね」


「ありがとう、ございます」


「あ、でも君の名前は知っておきたいな。じゃないと、これから不便でしょ?」


「じ、じゃあ、剣を教えてくれるんですか?」


「うん。君の体調が回復してからだけどね」


「……シリカ。シリカ・オルキスです」


「そっか。シリカちゃんか。良い名前だね」


 頭をひと撫でしてあげると、少女──シリカはどこか安心したような表情を浮かべて、そのまま眠りに入ってしまった。


 これが、未来の剣聖とオルトが初めて出会った日だった。






──

序章、未来の剣聖─全5話です。短めでいきます。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る