25
俺の分?
ミシマが、芯から不思議そうに言ったので、私はミシマが自分の悲しみを完全には理解していないのだと思った。ミシマはついさっきも、今にも泣きそうな雰囲気を出していたのに。
「そうだよ。」
頷いて、ミシマの首に手を伸ばす。低い体温だった。それさえ悲しい気がした。なんで悲しいのかは分からないけど、なんとなく。
「悲しいね。」
ミシマも悲しいし、私も悲しい。きっと今頃、ルルちゃんも悲しい。誰も、誰のことも悲しませたくないのに、全員悲しい。
ミシマは私に首を抱かれたまましばらく黙っていたけれど、しばらくして、口を開いた。
「試してみよう。ここから恋愛に発展できるか。」
私はその言葉に、思わず笑ってしまった。いつも私より全然大人なくせに、なんでこんなときだけ子どもみたいなことを言うんだろう。感情は、試したりできない。私はそのことを、ミシマとルルちゃんから習ったのに。
「これまで、みんなにそう言ってきたの?」
「つきこだけだよ。」
ミシマはすぐに否定したけれど、嘘だと分かっていた。これまでミシマはたくさんの女の子に、同じことを言ったのだろう。言われた女の子たちは、どう反応したのだろうか。ミシマと恋愛に発展できるかなんて、そんな絶望的な実験を、それでも試みた子もいるかもしれない。私と同じ気持ちを持った子なら、多分。
しばらく、ミシマは嘘をついたその口を開かなかった。私もやっぱり、口を開けなかった。口を開いたら、やっぱりミシマが好きだと、縋ってしまう気がした。しばらくの無言の間の後、ミシマは私の上に落っこちてきた。ばさりと、全身の力を抜いて。
重たい、とは思わなかった。それは、快い重さだった。ずっとこの重みを感じていられたらいいのに、とも思った。
ミシマが、ため息みたいに細く長い息を吐く。
「あんたなら、って、思ったよ。」
低く囁かれた言葉。私は、それを信じた。頭から完全に、信じ込んだ。そうでもしないと、この恋は悲しすぎた。
「こどもみたいで、平気な顔してルルの部屋にいて、当たり前に三人でいられて。」
ミシマが呟く言葉に、私はいちいち、うん、うん、と頷いた。
「それでも、やっぱりだめか。」
うん、と、私はまた頷いた。ミシマの表情が見えないことを、信じてもいない神様に感謝した。
そして、ミシマの身体をぎゅっと一回抱きしめて、ベッドから下りる。ミシマは追っては来なかった。
今日を最後にもう二度と使うことはないのだろう駅までの道をたどりながら、私も少しは大人になったかな、と念じて、涙の気配を誤魔化した。
ルルちゃん 美里 @minori070830
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