24

 ミシマは私の手を引っ張って、玄関からリビングを抜けて、奥の寝室まで一直線に進んで行った。私は、サンダルを脱ぐことすらできずにミシマに引っ張られた。

 「ミシマ? ねぇ、ミシマ!?」

 サンダル履きのまま、白いシーツが敷かれたベッドの上に落とされる。頭が状況についていけなかった。私は今、なにをされようとしている?

 ミシマが私の肩に手を置いて、ベッドに沈めてきた。求められていることは、ここまできたら、ひとつだけだろう。私はその事実に、ひどく戸惑った。だって、ミシマは私のことなんか好きじゃない。いつだって、ルルちゃんだけを見てきたはずだ。そう思うと、じんと胸が痛んで、その痛みに連動するみたいに、頭の中はクリアになった。静かで冷たい水に満たされたみたいだ。

 「ルルちゃん以外のひとと、したことあるの?」

 問いかけるとミシマは、ごく低く、呟くように答えた。

 「ある。ルルとは、ない。」

 ミシマの表情は、影になっていて見えなかった。私は、ミシマが泣いているのではないかと思って、彼の目元あたりに手を伸ばしてみたのだけれど、そこに濡れた感触はなかった。

 ある。ルルとは、ない。一番悲しい答えだと思った。ない。ルルとは、ある、が一番悲しくなくて、次点で、ない。ルルとも、ない、が悲しくない。ある。ルルとは、ない、は悲しすぎる。誰としたの、と訊くのも馬鹿馬鹿しい。誰でもいいのだ。ルルちゃんでないのだったら、誰とでも一緒。ミシマのそういう悲しさを、私はよく見て知っていた。

 「あんたは? ルル以外としたことあるのか?」

 訊かれた私は、素直に答えた。

 「あるよ。」

 「あるのか。」

 ミシマが意外そうに言うから、私はなんだかおかしくなった。ミシマにとって、私は本当にこどもだったのだろう。ルルちゃんが私に構うから、一緒に構ってみただけの、ただのこども。

 そう思うと悲しくなってきて、右目の縁に涙がたまるのが分かった。零れ落ちる前に、指先で拭う。

 「そんなに、嫌か。」

 ミシマがぽつりと言って、私は首を横に振った。乾いた髪が、ぱさぱさと耳元で音を立てた。

 嫌なはずがない。私はミシマが好きで、多分これは初恋で、そういう意味で、ミシマにされることのなにもかもを私は受け入れられる。ミシマの気持ちが、全然私の上になくっても。

 「これは、ミシマの分。ミシマが泣かない分。」

 言った拍子に、右目からも左目からも、涙の雫が落ちた。

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