倒すべき敵

第19話 愛しい人


地に落ちた。

誰がかといえば薮三が、である。

まあ正直、地に落ちるのは仕方の無い運命だったと思う。

彼女はマジにろくでなしだ。


「才知さん」

「...何だ?」

「藪三は何がしたかったんですかね?結局」

「俺も分からないな。アイツの考えなんぞ。結局最後まで分からなかったしな」

「...」


私達は店内をまわり続ける。

それから私は雑貨屋さんを見つけた。

中は若い子の為か色々な韓流グッズなどが置かれてある。

まあ才知さんより格好良くは無い。


「何かさ。藪三は訴えたかったんじゃないかって今でも思うんだよな」

「訴える?」

「そうだ。まあなんつうか多分...構ってほしかったんだろうな」

「ああ。そういう...」

「...日本全国の発達障害を否定する訳じゃないけど。アイツは一応...聞いた噂じゃグレーゾーンらしい」

「グレーゾーンっていうのは?」

「グレーゾーンっていうのは発達障害かただそれ以外か。境界線が曖昧な存在だな。愛着障害もあるんじゃないか。よく分からんけど」


そう言いながら才知さんは肩をすくめる。

それから前を見た。

私はその姿を見ながら考え込む。

才知さんが呟く。


「彼女は救いようがあった。だけど無碍にしたからもう許さない」

「...ですね」

「俺も相当傷付いた。絶対に許さん」

「...人に構ってほしかった、は理由になりませんね。確かに」

「絶対に俺は自らの痛みを超えてやる」


才知さんはそう話しながら複雑な顔をする。

私はその姿を見てから店内をチラ見する。

そして笑みを浮かべた。

それから才知さんの手を取る。


「今は忘れましょう。才知さん」

「...三毛?」

「今日はプレゼントが欲しいです」

「プレゼント?」

「はい。才知さんから何かくれませんか。今日の記念です。勿論、タダとは言いません。私も贈ります」


そう言いながら私は才知さんを見る。

ニコッとしながら才知さんの手を引く。

すると才知さんは赤面しながらも。

納得してくれた様に反応した。


「今日、この日の祝いか。確かにな」

「でしょう?だからお祝いです。張り切りますよ!」


それから私は店内を見渡す。

すると才知さんは私の肩を叩いた。

そして私を見る。


「ちょっとトイレに行くから」

「あ、はい。才知さん」

「...まあ楽しみに」

「え?」


お手洗いに行くだけだよね?

何でそれが、お楽しみにな、になるのだろう?

そう考えながら私は才知さんを見る。

才知さんは駆け出して行った。



俺には目的がある。

トイレもそうだけどそれ以外に目的がある。

それは三毛が居ない時じゃ無いと出来...いや。

出来るけど楽しみが減る。

面白く無い。


「...」


駆け出してから俺は曲がり角の先。

先程通ったが彼女。

つまり三毛が気が付かなかった場所に来た。


そこはジュエリーショップ。

勿論高値は無理だ。

天然石とか扱っている場所である。

店内に入ると店員さんがやって来た。


「あ、いらっしゃいませ」

「こんにちは。...すいません。予算内でブレスレットが欲しいです」


俺はそう告げた。

すると店員さんはニコッとしてから案内してくれた。

とても丁寧な案内をしてくれる方だった。



「遅いな。才知さん」


私はそう考えながら才知さんの事を探す。

戻って来ない。

既に時間は20分以上経っている。

遅いのではないだろうか。


「どこ行ったんだろう」


考えながら私は歩く。

すると大声がした。

私を呼ぶ声であった。

振り返ってみると汗だくの才知さんが居た。


「お待たせ」

「才知さん。...帰ってしまったかって思いました」

「...そんな事する訳無いだろ。彼女なんだから」

「はい。...何処に行かれていたんですか?」

「プレゼント」


私に対してそう告げた才知さん。

それから私に何かを渡した。

私は驚愕しながら才知さんを見る。

え?


「プ、プレゼントとは言いましたけど...これは流石に高い物じゃ。紙袋に入ってます。欲張りすぎましたかね?私...ごめんなさい」

「いや。俺が買いに行きたかった店だ。正確には...藪三に贈る為の店だった」

「!」

「お前で塗り替えてくれ。この場所の記憶を消したいから」


才知さんは笑みを浮かべながら渡してくる。

それは...ブレスレットだった。

タイガーアイだった。


「...綺麗」

「アイツに贈ろうとしたものじゃ無いから。安心してくれ」

「...」

「...三毛?」


私は紙袋を落とした。

それから才知さんにその場でキスをする。

通行人が驚いて私達を見た。

だけど構わない。

嬉しすぎた。


「み、みけ!?」

「やっぱり私は大好きです。才知さんが」

「ば、馬鹿野郎が?!こんな場所でキスとか!」

「構いません」


私はブレスレットを身に着ける。

それから涙を浮かべた。

涙を溢した。

すると才知さんは赤面で苦笑いを浮かべる。

赤面を治しながら私を見た。


「有難うな。三毛」

「...私は何もしていません。貴方が全てやった。だから私はこうして愛しい人を見ています」


ブレスレットを撫でる。

それから笑顔で才知さんを見た。

才知さんは柔和な顔で私を見てから手を差し出してきた。

私はその手を握り返す。

そして紙袋を拾ってから歩き出した。

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彼女が寝取られた。すると前から知り合っている女の子が俺に接近して来たのだが性格がヤンデレであった。...助けて神様。 アキノリ@pokkey11.1 @tanakasaburou

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