空虚に喪失した手紙
『「喪」という言葉は、一般的には良い印象を与えるものではない。喪失や沮喪など、陰影と回避できない痛みが伴う。しかし時には、「喪」は単なる悲嘆の代名詞にとどまらず、かつての所有に対する懐かしさを表すこともある。本日の物語はMさんの経験に基づき、愛と別れが交錯する中で、言葉では完全に構成しきれない感情の「喪」が如何なる力を解放するのかをお伝えします。それでは、Mさん、どうぞお話しください。』
『ありがとうございます。えー昨年の桜満開の時期に、私の最愛の人が先に彼岸へと旅立った。彼の名言の一つに「笑うのは私の自然反応だから、それが内面の空虚感を排除するものではない」があった。彼の所謂空虚感を今になってようやく理解できた。今日は、その思いを通じて、遠く離れた彼への思念を皆さんに共有したいと思います。』
それは春風が緑の葉を揺らし、花の香りが漂う季節だった。大学で不意の出会いが、彼の一挙手一投足が、まるで脳内で繰り返し、再生されるように、私の心に刻まれた。彼の笑顔は、まるで一筋の温かな陽光のように、私の光のない迷いを吹き飛ばしてくれるものだった。
その欺瞞と猜疑に満ちた時代において、真実で純粋な愛はどのように強烈で、簡単に察知されるかを皆さんにはご存知でしょうか。地球が月を失うことができないように、銀河が星々を失うことができないように、私達は互いに引き寄せられ、良い関係を築いた。
彼は特に手紙を書くのが好きだった。その文体は世間と全く合わず、現代において彼の性格自体が世界と調和しないように思えた。しかし、世俗の外見を外し、彼の純情な内面こそが、私は彼に恋した引き金だ。
全てが順調に進むと信じていた矢先、自らが誇りにしていた幻想が雷の一撃のように打ち砕かれた。彼の不審を発見し、彼の秘密を知ることになったが、それを暴露する勇気はなかった。なぜなら、「仮眠を装い続ける者には、背後に隠された陰謀や苦悩がある」と信じていたからだ。だから私は、ただ知らないふりをして、彼のそばに静かに付き添うしかなかった。
しかし、毎日濡れた枕や病気に苦しむ彼の姿を見るのは耐えられなかった。その時点で自分の心が既に彼に一生を捧げる覚悟を決めたことに気づいた。
微笑と共に発せられた「バカ、私はとっくに気づいていたよ」と言った瞬間、彼の涙腺を崩壊させた。彼を自宅に迎え入れ、残された貴重な時間を共に過ごすことにした。
その年の春、芽吹く季節の中で、私たちは客間で互いに抱き合いながら座っていた。その瞬間、大学時代の香りと悲酸の味が混じった錯覚に包まれていた。彼は私の耳元で優しく囁いた。
「許してください、私の失われた愛よ。」
私も彼の約束に返答した。
「どんな時、どんな場所でも、私は必ずあなたを見つけて、そしてまた愛する」と。
つい最近、まるで鋭利な刃物のように私の喉を貫き、私を嗚咽させる手紙を見つけた。どうかシェアさせてください。
『親愛なるM様へ
もし自分に残された寿命が僅かだと知った場合、君はどう反応するだろうか。この問いは無意味だ。なぜなら、私達は異なる個体で、君は私の感情を気にする必要は全くない。君とこの悲傷を共有することもできないからだ。だから私は君に知らせることを選ばなかった。私のいない生活がどれほど無力で悲しいものか、むしろ君にとってどれほど嬉しいかを想像もつかなかったからだ。
しかし、微細な喜びを感じている。世界には私よりも苦しんでいるのに、その苦しみを公にしない人達が多くいる。だから自分の弱さを見せるべきではないと自分に言い聞かせていた。でも今の私はそれを表現しても良いのだろうか。他人の同情や配慮を正々堂々と受け入れることもできるだろうか。
「笑うのは私の自然反応だから、それが内面の空虚感を排除するものではない」
視力が衰え、愛するその顔をもう見ることができなくなった。だが、心配しないでください。記憶の甘い味を味わうことがまだできるからだ。昔のことは鮮明であればあるほど、今はそれと同じくらい絶望的だ。かつて君が私に近づくことを憎んでいた気持ち、君はその感情をどれほど理解できるだろうか。
「愛してやまないことが、何よりも虚しさを感じさせることがある。」
最愛の人』
以上です。今の私にとって、『「空虚」は感情が表現できない憂慮に過ぎない。また「喪」は憂いから生まれる憂鬱に過ぎない。どちらも一見すると悲しみの言葉だが、憂鬱は憂慮を遡り、憂慮は憂鬱に伴う。私達は決して何も失っていないし、伝えよう意思は既に伝えた。このように考えると、「喪」果たして歓びではないでしょうか』
「なるほど、悲しみ気持ちを隠しているうちに、実は思念や愛をもう伝えたね。勉強になりました。素晴らしい物語でした。Mさん、今日はどうもありがとうございました」
「いいえ、こうして私もその約束を実行する能力を持つようになりました。こちらこそありがとうございました」
終
扉と傷 レイヨ @Reiyo1009
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