愛唱

けっして触れずにいよう

そうでなければ

失われてしまうのだ


僕があの日

ずっと守っていたものは

夕日に錆びた鍵

それを今探している

君の影はあの坂道の向こうに踊り

僕は決して追いつくことは無い

その歌声を聞き

夢の中で君の表情をじっと

見つめ、追う。


ああ

この風がやんで

静かな無言の宴が終わる時

僕はそこが

訪れるべきところでなかったことを知るだろう

その何もかもが

夢の中でしか美しくないことを

降り注ぐ雨のような旋律が

僕に教えたから


君は

立ち止まり、歩き、踊る。

そのてのひらがあえいだ軌跡を

僕は受け止めるだろう

灰色の瞳は翻り、

機械のように悲しい口笛を吹く

君は

人をなくすだろう

もう涙を流さない一人の女のために

コートのポケットに凍った小指をしまったままで


明日は、君の失われた誕生の予定を

僕の

白紙のカレンダーに刻もう。

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