旅路
そこは寂れた町だが何かが呼んでいるような気がするのだ
悲しいことは昨日に委ねて
今日はここで旅の支度をしよう。
きっとあの呼ぶ声に応えられるはずだ
オレンジ色の街灯が伸びるその道は
幼い頃に見た町のものだ。
今はもう絶え果てた淡い光の向こうに
甘い香りのする子供の悪夢が見える
カメラを向けて写そうとしても
その人はまるで幻灯の中の影のように
見る者をもてあそんで消えていく
頭上の時計には
寂しい影が落ちていく
海に行こうと思い出の人は言う
そこには靄のかかった宿があって
少年の心を連れて行くには良いところだと
明日、あの駅のホームで
あの人は静かに振り返るだろう
五月雨の中を歩く
雫の落ちる帽子の鍔をみつめながら
その向こうには
懐かしい店があるのだろうが
もう二度といくことは出来ない
そうして街の灯りの中に
静かに倒れていく
汽車はもう来る
いつかではなく
いつも
目の前にやってくる
ただ
それと気づかないだけなのだ。
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