第2話 魔王が死んだ
————魔帝歴8年、魔王が死んだ。
俺らの辺鄙な村にこれが伝えられたのは、事が起きてから2年、俺らが耕す土地が新国王のものになってから6ヶ月後。通達を頼まれた行商人によってだった。
やっぱり、別段俺らが何かされるって事はないらしい。税を納めるところが変わっただけだった。
『税を納める限り、皆さんの生活は新王国が保障する。新王国としては争いは望まない。今まで通り稲を刈って、鍬を振るっていれば新王国は干渉しない』
良い服を着て良い馬に乗った、少しばかり腹の出たが商人が言っていた。
————新王国歴3年、魔王が死んでから3年が経った。
どうやら商人の言っていたことは本当だったようだ。商人が村に来たその日から、よく村の外から来た人を見かけるようになった。
村の皆は、普段通りの生活を続けていった。
勿論、俺もそうした。
どうやら俺らは小さいらしい。世界が変化しても、俺らの日常が変化しないぐらいには。
たとえ上がすり替わっても、俺らみたいなちっこい歯車が回り続けることに変わりはない。
昔の俺、まだ若かった俺はこれが悔しかった。
世界にとって俺が替えの利く物であることが、俺の全てを持って築き上げた生活が小さく無意味なものであったことが、悔しかった。
しかし、妻を娶り子供を産んでもらってから、俺はこう考えるようになった。
確かに、世界にとって俺は替えの利く小さな歯車なのだろう。しかし今は俺を掛け替えのない存在だと思ってくれる女がいる。自分の背中を追いかけてくれる子供がいる。
毎朝起きると隣に妻がいて、畑へ出ると子供がついてくる。確かに俺のこの生活は小さいのかもしれない。それでも無意味だとは思えない。
いつしか勇者とか魔王とか、そんなはるか遠く思えることには気を向けなくなった。自分の生活には関係がないのだから。
稲を刈り、鍬を振るう。この日常、この生活さへあれば俺は幸せなのだから。
勇者が死んだ…………らしい 虎牙天翔秋優花 @kogatensyoutokiyuka
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