勇者が死んだ…………らしい
虎牙天翔秋優花
第1話 勇者が死んだ
————王国歴573年、勇者が死んだ。
俺らの辺鄙な村にこれが伝えられたのは、事が起きてから1年、俺らが耕す土地が魔王のものになってから4ヶ月後。魔族の使いによってだった。
言うには、別段俺らが何かされるって事はないらしい。税を納めるところが変わるだけだ。
『税を納める限り、諸君の生活は我々が保障する。我々とて争いは望まぬ。今まで通り稲を刈って、鍬を振るっていれば我々は干渉しない』
良い服を着て良い馬に乗った、ツノを生やした魔族が言っていた。
————魔帝歴2年、勇者が死んでから2年が経った。
どうやら魔族の言っていたことは本当だったようだ。使いが来たその日から1年経った今でも、魔族は1回も見ていない。
その日より村の皆は不安を抱えながらも、普段通りの生活に戻っていった。
俺もそうだった。
どうやら俺らは小さいらしい。世界が変化しても、俺らの日常が変化しないぐらいには。
たとえ上がすり替わっても、俺らみたいなちっこい歯車が回り続けることに変わりはない。
俺はこれが悔しい。
世界にとって俺が替えの利く物であることが、俺の全てを持って築き上げた生活が小さく無意味なものであったことが、悔しい。
勇者が死んでから、俺はこう思うようになった。
それでも歯車であることからは逃げられず。
このちっぽけな生活を守るため、稲を刈り、鍬を振るった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます