第25話 救済編 魔法事故に巻き込まれた研究員

 私の日常が奪われたのは、突然の事だった。


 私は、王宮で魔法を研究しているしがない研究者の1人だ。軍で使う為の火魔法、爆発に関する魔法の研究をしていた。

 ある日、研究中の魔法が誤作動し、研究室には大規模な爆発が起こった。


「ひっ、キャアアアア!」


 爆発が起こる瞬間は、心臓が凍りついたような心地だった。魔法陣が発光した時、一瞬にして血の気が引いた。反射的に腕で顔を覆い、背中を向けて蹲ることしか抵抗が出来なかった。


バァァン…


 全身を高熱が覆う。肌が沸騰するようであった。痛みと精神的ショックで気を失った。


 病院にて、一命は取り留めた。しかし、背中と腰に爆発が当たって下半身不随になり、火傷を負った。髪も失い、坊主になった。

 研究室は頑丈に作ってあるものなので、倒壊はしなかったのが不幸中の幸いであった。


 病院で状況を聞いた時は、突然の事で感情が追いつかなかった。ある日突然、下半身不随になってしまったのだ。

 研究は、仕事は続けられるだろうか。今後の人生、一生これを背負っていくのか?先の見えない絶望が、肩にべったりくっついた様な心地だった。


 病室で、放心する。いきなり残酷な現実の中にほっぽり出された感覚である。

 病室では、何をしたらいいか分からなかったので、ただ流れる時を味わっていた。

 覇気もないし、力なく脱力していた。


「私、どうしたらいいんだろう…」


 どうしようもないか。私は絶望の沼の底から、上を見上げるだけだった。


 火傷は痛かった。水膨れになった肌、黒く焦げた肌。包帯を巻いていても、ジクジクと痛んだ。

 痛みで眠れない日が続いた。ただ唸る。


「うぅ、痛い…」


 そんな夜は、辛くて涙が出た。こんなのに耐え続けなければならないのか。早く治るのを願うしかない。


 火傷が軽い所は、治りかけになると痒かった。だけどかいてしまうとまた傷口になってしまうので、ステロイドを塗って痒みを抑えるのであった。


 排泄も看護師さん頼りだった。自分で歩けないのだから。情けなさを感じたが、仕方ないと割り切ることができたのは幸いだった。


 入院中のある日、シュナという神が不治の病を治しに来るという話を聞いた。


 神が態々病院にね。あまり信じることは出来なかった。そんな存在いるのだろうか。


 でも、もし私の傷と下半身不随が治るのなら。その時は、信者にでもなんにでもなってやろう、という気持ちだった。


 やがて、その神と会う日が来る。


〜〜〜


 今日は、宗教活動の一環として、病院に来ている。まぁ宗教活動というより、神力で人を助けたいなと思ったのだ。


 神力で不治の病は治すが、治療代は半分ほど病院に渡す。私の神力のせいで医者がお金を稼げなくなっては可哀想だからだ。残りの半分は、戦争孤児や貧困の人への寄付にする。


 その話を院長にした所、


「いやいやいや、不治の病を治してくれるだけでも十分ですのに、治療代まで。まぁ貰えるものは貰いますが、いつでも話は応じますからね」


 と言われた。有効活用してくれると嬉しい。


 治療する一人に、火傷を負った、下半身不随の女性がいた。

 話は聞いているらしい。期待と胡乱が綯い交ぜになった目でこちらを見ている。


 私は対話を始めた。


〜〜〜


「こんにちは。シュナ教のシュナです。貴方の傷を治しに来ました」


 彼女は穏やかな顔をしていた。神らしい、後光の差した神々しい姿だった。銀髪の髪がキラキラと輝いている。


「よ、よろしくお願いします」

「うん、よろしくね。下半身不随と火傷、で良かったよね?」

「はい、合ってます」


 優しい声音で聞かれる。私はそれだけで泣きそうになってしまった。


「それじゃあ、始めるよ」

「お願いします」


 私の体に手をかざして、呪文を唱える。


「傷よ、癒えろ」


 瞬間、私の傷が淡く発光して、傷がみるみるうちに治っていった。


「ほ、本当に…治った」

「良かった。筋肉も健康な状態にしたから、今すぐにでも歩けると思うよ」

「あぁ、神様…」


 私は涙を流しながら、祈る体勢で彼女に向き直った。


 下半身は簡単に動いた。これが神の力か。感動で心がいっぱいだった。


 私は既にその生を諦めていた。神に見放された運命なのだと思ってた。


 でも、違った。神は私を見捨てていなかったのだ。拾う神ありである。


「今日から、シュナ教に入信します」

「それは良かった!」

「ふふ」


 ちょっと胡散臭い笑みがまた可愛らしかった。神もそんな表情をするのか。

 闘病生活で荒んだ心が、少しだけ癒されたのだった。


 予後は本当に良かった。衰えた筋肉まで戻してくれたのは、疑ってはなかったが本当の様で、事故前と変わらぬ歩行が出来た。

 退院もすぐ出来た。笑顔で看護師達に別れを告げた。

 仕事も無事復帰できたのだった。


 それから私は敬虔な信者としてシュナ様を敬い、心の拠り所としていた。布教活動にも勤しみ、他の信者と共にビラ配りなんかをした。

 シュナ様を信仰し始めてから、心が豊かになった。いつも隣に居るかのような安心感があり、見守ってくれているだろう、という気持ちになるのだ。


 病院で神力による治療を受けた患者だけでなく、医者や看護師もシュナ教の信者は増えたらしい。その奇跡を間近で見て、心を奪われたのだと。


「シュナ様ってお強いのに優しくって、正に神様よねぇ」

「ねぇ。あぁ、神はここにいる、って思ったわ」


 看護師達がそんな話をしているのも聞いた。


 やがて、ルツェルンには病を治してくれるシュナという神がいるという噂が流れた。噂は街から街へ。各国から、ルツェルンの病院に人が来るようになった。


 不治の病を治してくれる神がいるというのは、ルツェルンの民に精神的な安寧を齎した。病気で死ぬことはほぼ無くなったのだ。ただし、シュナの手が追いつかなければまた別の話ではあるが。


 シュナは、シュウィーツだけでなく、ルツェルンの宗教としても信仰を集めた。


 やがてルツェルンは、シュナという神のもと、不治の病が治る国として、名を馳せることになるのだ。

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神様にお任せ!! 砂之寒天 @sunanokanten

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