変身の代償

@mis_a10

第1話

和也は平凡な高校2年生。毎日同じような日々を過ごし、特に目立つこともなくただ淡々と生きて いた。部活で活躍しているわけでもなければ、勉強ができるわけでもない。特に頑張ることも見つ からず、自分の生活に満足していなかった。それに対して、和也の一番の友達である恭平は、和 也と同じくバスケ部に所属していて毎日エースとして活躍している。勉強もよくでき、天は二物を 与えずを覆してくる、毎日充実したキラキラ完璧男子高校生だ。そんな恭平を一番近くで見てい ると、どうにかしてこんな生活から抜け出したいと思うようになる。でも何を変えたらいいのかも分 からず、和也は自信を失っていた。

そんなある日、和也は部活終わりの放課後いつも通り恭平や他の友達と帰っていた。最寄り駅で 彼らと別れて一人で歩いていると、いつもは静かな通りに、ぽつんと一軒の骨董品屋に明かりが ついていることに気がついた。大西骨董店と書かれている。いつもの和也ならそんな怪しい骨董 品屋なんて入ろうと思わないが、なにか惹かれるものがあり立ち寄ってみることにした。中は外装 の暗い感じとは打って変わって、広々としていてモダンで良い雰囲気だった。壁には絵画、椅子 や机が並び、食器やアクセサリーなどが広げてある。どれも古いデザインだが綺麗だ。さまざま なものがおいてあり和也はお店の中を歩き回って見ていた。すると、お店の一番奥の壁に1枚の 鏡が立てかけてあるのを見つけた。その鏡には「望む姿に変身できる」と書かれている。そんな 馬鹿な、和也もそう思ったが、ふと毎日が退屈で物足りないという現実が頭によぎった。嘘か本 当かはこの際どうでもいい。この毎日を変えるため、和也は半信半疑でこの鏡を購入することに した。

鏡を買った和也は、鏡を抱え家に帰った。家に着くとさっそく鏡の力を試してみることにした。鏡の 前に立ち、心のなかで理想の自分を思い浮かべるとその姿になれるらしい。和也はとりあえず 「部活で活躍したい」そう心に思い浮かべた。すると...何も変わらない、、、呆れた和也は、寝るこ とにした。そして次の日、学校で和也は恭平に昨日あったことを話した。怪しい骨董品屋に立ち 寄ったこと。変な鏡を買ってしまったこと。せっかく買ったのに何も変わらなくて萎えたこと。恭平 は笑いながら「気をつけろよ」そう言った。和也は恭平のその言葉の意味が分からなかったが、 後にその意味の恐ろしさに気づくことになる。そして、部活の時間になった。練習が始まった途 端、和也は自分の体が見違えるように上手く動くことに驚いた。いつもは他人事のように「さすがだな」と眺めるだけだった恭平と対等に競れるくらいに。周りの友達も、顧問の藤原先生も驚きを 隠せない様子だった。「和也急にどうしたんだよ!」みんなが集まって来てくれることが嬉しかっ た。ただ、鏡のことを話す訳にはいかない。和也は笑って受け流した。驚きと喜びでいっぱいに なった和也は新しい自分の姿での生活を楽しむことに決めた。

鏡を手に入れてからの和也の生活は順調だった。部活では、試合でも練習でも力を発揮し後輩 や先生からの評価も上がった。鏡の前で「賢い人になりたい」そう願えば、テストの成績も良くな る。次第に恭平の横にいる自分に自信がないなんて思うことも減っていき、前みたいなつまらな い生活から抜け出すことができた。そうやって、自分の醜い部分に気づくたび、鏡の前での変身 を繰り返した。そんなある日、いつも通り過ごしていると隣の席の長尾さんに言われた。「和也くん 最近なんか変わったよね、前より明るくなったっていうか。」長尾さんのその言葉で急に分からなくなった。今の自分は誰なのか、本当の自分は何なのか。家に帰り鏡の前に立つ。和也は我に 返り、もう元の自分には戻れない恐怖に襲われた。

怖くなった和也は、しばらく鏡の力を使うこと をやめていた。それまでの間に変えた自分の姿のお陰で、鏡で変身しなくても学校も楽しく、人間 関係も良好で充実した生活を送ることができていた。しかし日が経つにつれて、和也は今の自分 に物足りなさを感じるようになった。昔の自分にしてみれば、なりたかった自分になれているはず なのに。気づけば和也はまた鏡を使うようになり、完全に鏡に依存してしまっていた。 それから数日たったある日のこと、鏡がなにかの拍子でばたんと倒れた。そこで、鏡の裏に1枚 の古い手紙が隠されていることに気がついた。その手紙には、「鏡の力を使い続けると、最後は自分の魂を失う」という警告が書かれていた。和也は一気に恐怖に駆られ、一目散に部屋を飛び出し、あの骨董品屋に向かった。しかし、その場所には一軒の空き家が立っているだけだった。 閉まっているシャッターを叩いても返事はない。動揺を隠せない和也は、「鏡を壊すしかない」と 思い、再び走って家へ戻った。家に着くやいなや、引き出しからハンマーを取り出し、思いっきり振り下ろした。驚くべきことに、鏡が割れる気配はない。鏡は和也の破壊の意思を拒み、和也を完全に飲み込んでしまった。


その後、鏡の前には恭平が一人立っている。恭平は微笑みながらつぶやいた。 「だから言ったのに笑。気をつけろって。」

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