Who? You. know me.

ねくしあ@カク甲参戦中!

部員だし……

「さぁ三土みつちくん! 私の目の前に広がるのは何かね!?」

「海ですね。とてもとても海ですね」


 真夏の太陽みたいに暑苦しく話しかけてきたのは、俺のことをいつまで経っても名字で呼んでくる心海ここみ先輩——部活の先輩だ。

 1個上だからか、距離感が意味不明なほどにバグっている。先輩と出会ったのはだいぶ前だが、それでもこの距離感はおかしい。


「正解、大正解だよ三土くん!」

「そりゃどうも……というか、先輩も俺も水着じゃないですか。その質問は意味あります?」

「意味はあるに決まっているさ! こう……テンションを盛り上げる、みたいな!」


 俺が言った通り、二人とも水着である。

 俺の方は学校で使っているものを、先輩の方はフリフリがついたオシャレな青色の水着を着ている。

 今だって、ぴょんぴょんと可愛らしく飛び跳ねている。それでフリルとその下にあるものが重力に沿って動いている。


 普段から露出が多いこの人は、やはりここでも露出が多かった。目のやり場に困って仕方がない。まったく……


「――というか、三土くんはなんでそんなに冷たいのさ! 海といえば青春だろう!? 青春と言えば海だろう!?」

「そういう問題じゃないですよ……」


 突っ立っているだけで肌が痛い。

 今の状況なんか、太陽が二個あるようなものだしな。遠い方の太陽が近づいてきてもそう対して変わりはしないだろう。


「ふーんだ! そんな冷たい三土くんには――こうしてやる!」


 挑戦的な目つきになったかと思えば、すぐさま砂浜を駆け抜けて海へ飛び込む。ひんやりとした水を身体で味わった先輩は、その手に水をすくって戻ってきた。


「喰らえっ!」

 

 バシャッと顔に目掛けてかけられた水は、やはり塩の味がした。

 だが、この気温でそんな程度の水をかけられたところでダメージはさしてない。


 しかしやられっぱなしも癪なので、俺も海から水をすくってかけてやった。


「仕返しですっ!」

「お、やったなぁ~?」


 そこからしばらく水掛け戦争が始まった。かけてかけられ、たまに走り回って避けたり。

 この戦争で持てる弾数は一発。それをどう使うかの心理戦のような状態だった。リロードは海に行かなければならない。しかし海に近づくのはデメリットが多い。そう考えれば、よくできた遊びだと思う。


 浜辺を走り回る先輩の黒いポニーテールがゆらゆらと揺れる様はとても映えていた。なんだか悔しい。顔は可愛いんだがな。


 普段運動していない俺と、運動好きな先輩。そもそもの体力に差があるせいか、次第に息切れしてきてしまった。


「はぁ……はぁ……」

「あれぇ〜? どうしたの三土く〜ん! そんなに息を切らしてさぁ〜」


 そう俺を煽ってくる先輩は全く息切れしていなかった。余裕そうな表情でこちらをじっと見つめている。


 煽られたことに内心毒づき、最後の抵抗と言わんばかりに海水をかけた。


「あ〜らら。くたばっちゃった。だんだん日も沈んできたし、暗くなる前に帰ろっか」


 俺の身体は満ち干きする水際の部分に倒れ伏していた。真っ白に燃え尽きたのだ。


「勝ち逃げするつもり……ですか!」

「死人に口なし、だよ。ほら、立って」


 優しげな笑みを浮かべて手を差し出す先輩。

 今自力で立ち上がることができるほど俺には体力が残っているわけではないので、不承不承、渋々、その手を掴んで起き上がる。


「じゃあ、帰ろっか」


 こうして先輩との遊びは幕を降ろした——はずだった。


 ◇


 翌日。

 朝方に先輩から電話がかかってきた

 俺は分厚い布団の中でそれを応答する。

 

『……風邪、引いちゃった☆』

『俺もですよ!!! そりゃあそうなります!!!』

 

 

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