第3話 少年が捨てられた真相
騎士団と魔導士団を見送り終えた後。
「・・・ごめんよ。ハルタ。」
私は山の洞窟の方を見てつぶやく。
あの子には本当にひどいことをしてしまったんだ。
私はカラーナ・アラン。
この村、ラズリ村の狩人で・・・ハルタ・アランの育て親だ。
いや、だったの方が正しいか。
何故過去形に言い直したのかというと、最近そのハルタ・アランを追い出したからだ。
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14年前のある日、私は村の入り口の地面に置かれてあった籠を見つけた。
「・・・ん?なんだこれ・・・赤子?なんでこんなとこに。」
「・・・・・・・・・・・」
その子はまるで天使のような顔で眠っていた。
「・・・・・・なんてかわいい顔で寝てるんだい。」
恐らくは親に捨てられた子なんだろう。
本当は泣け叫んでてもおかしくないんだが・・・肝が据わってるのかもね。
とにかく、私はこの子を引き取ることに決めた。
生活は決して裕福じゃないが、子供一人養えるだけの余裕はある。
それにこんなにかわいいんだ。村のおばばたちも黙っちゃいないだろう。
「なんだい、その子。かわいいじゃないか!」
ほらやっぱり。早速おばばが一人食いついてきた。
私は村の入り口で拾ったことを伝えた。
「ほお、んで、アンタの所で育てることにしたのかい。」
「ああ、そうするつもりだ。まだ余裕はあるしな。」
「そうかそうか、あんたの所なら間違いなさそうだね。んじゃあ、あとで爺さんに麦を多目に分けておくように伝えておくからね!」
「お、流石!ありがとね。」
「気にしなさんな。たまには顔も見せてくれよ!」
「わかった~!」
そのまま家に連れて帰り、夫と息子にもそれを伝えた。
夫は「もっと頑張らないと!」と気合を入れ、息子は突然できた弟だったがすごくうれしそうだった。
その後教会に行き、『鑑定』してもらった。
私はそこでこの子のハルラス・クローバーという本名と、天使と人間の混血であることを知った。
そこから着想を経てハルタ・アランと名づけ、どちらの名前でも違和感のないように、ハルと呼ぶことにした。
そのころから王家騎士団や宮廷魔導士団が異種族との混血の子を集めているという話が出ていた。人体実験をするためだとか、その種族に返すためだとか、労働力に使うためだとか。いろんな噂もされていた。
何が本当かわからない。でも、この子に危険が及ぶ可能性がある。
だから、このことは役人には知られてはいけない。
私は夫と息子、そして村のおばばたちを1人残さず教会に呼び、この子が天使との混血であること。役人にバレるとこの子の身に危険が及ぶ可能性があることを伝えた。
さらに3年後には娘もでき、多少不自由はさせてしまったが幸せな生活をしていた。
はずだった。
引き取ってから10年後のある日、私たちは教会に呼び出された。
王家騎士団と、宮廷魔導士団が多数の部下を引き連れ国全体を調べる作戦に出たという知らせだった。
この村は国境付近の村だから到着するのは4年後になるらしい。そして、その対象は村の全人間。、人間を探知しながら検査するため、村にいながら逃れることは不可能。
『鑑定』を使える人間を連れているらしく、ごまかすことも不可能。
選択肢は1つ。この村から追い出すこと。
私たちは丸1ケ月悩んで悩んで悩みぬいた結果、村から追い出すことを決めたのだった。
そこからはハルタにとっても、そして私たちにとっても地獄のような日が始まった。私は夫と共に娘と息子をなんとか説得し、ハルタを虐め始めた。どう考えてもおかしいことをしている。私もそう思った。でも、ハルタが戻ってこないようにするためには徹底的に嫌われるほかない。
だから、私たちは村全体で早く出て行ってもらえることを願いながらハルタを徹底的に虐めた。私たちも1ヶ月あれば嫌われて自分から出て行ってくれると思っていた。そして隣国への行き方を教えて、行商人に連れて行ってもらい隣国で新しい生活をしてもらうつもりだった。
つもりだったのに
私たちは、ハルタの辛抱強さと謙虚さを図り損ねていた。
あの子は、何を言われても自分が悪いと思い常に努力し続けた。心が壊れてかけても、何度も出ていくように提案しても、折れなかった。私たちは陰で泣きながら努力するハルタを見て、何度も何度も泣きながら謝りたかった。
でも、そんなことしてはあの子の人生が保障できない。
私たちは愛情を消してハルタと接した。あの子が私たちに愛情や未練を残さないように。徹底的に嫌われるように。
でも、結果は・・・ハルタの我慢が勝った。
ハルタは2日前まで耐えたのだ。もう時間切れだった。
私たちは事前に作って置いた隣国への生き方を描いた紙を右ポケットに仕込み、無理やり山の洞窟に追いやった。
その後村の人間に口止めをして回り、ついに騎士や魔導士たちが村に来た。
・・・・・・・・・
人生で一番緊張した時間だったが、なんとか乗り切ったらしい。
「・・・ごめんよ。ハルタ。」
私は山の洞窟を見る。
「・・・もう戻ってくるんじゃないよ。」
隣の国で立派になりな。応援してるよ。
この時、私は気づかなかった。
「・・・ふむ、そういうことでしたか。」
と意味ありげにつぶやく、男の存在に。
―――――――――――――――――――――――――――――
「・・・この村にもいなかったか。」
「ハァァァァア、人体実験できると思ったんだがなァ」
あの村を検査し終わった一団。いまだに収穫は0。
「おい、人体実験とか言うな。逃げられたらどうするんだ!」
「エエェ?さっすが騎士サマはおかてェなァ。周りに人なんざいねえじゃねえかァ」
「それでもだ。もし聞かれて逃がされてはたまらん。」
「・・・ケッ!」
そろそろ本格的に次の村を目指すことにする。
「それにしても、もう20ほど集落を回ったがいまだに一人もいないか。」
「まァ人口自体少ねェからなァ。しっかたねえっちゃ仕方ねえなァ。」
そんなことをのんきに話していたからか。
「・・・なるほど」
とつぶやく男に気づかなかった。
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読者の皆さん、男の正体はわかりましたか?
では、次のお話で答え合わせと行きましょう。
或る英霊の人生模様見聞録 猫の灯籠 @NekonoRantan
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