第2話 二度捨てられた少年の生きる意味

 僕はハルタ・アラン。14歳の人間。



 と思っていた。


「あなたの名前は『ハルラス・クローバー』とあるのですが・・・?」

「半分ほど天使の血が混じっています。」


 名前どころか種族まで半分違うなんて・・・


 なんかもう自分のことが信じられなくなってきました。助けてください。というかこのままだと年まで違うのでは?


「あのールシフィロスさん。僕の年齢って・・・?」

「年齢ですか?え~、14歳ですね。」


 そこは一緒なんだ・・・

 どうせなら違った方がよかったというかなんでそこはあってるの?逆に。


「ハルラス・クローバーという名前に聞き覚えはありますか?」

「ないです。」


あったらこんなびっくりしてません。


想像通りとばかりにうなずくルシフィロスさん。どうやらルシフィロスさんにはお見通しだったそうです。


 そういえば、ルシフィロスさんはクローバーという姓で天使とつながりがあると推測していた。この姓に何か特殊な意味があるのだろうか?


 聞いてみたところ、クローバーという姓は天使の家系にしか存在せず、天使でもかなり位が高い家系らしい。天使の風習として母側の姓を取る風習があるため、家計のうちの誰かが人の男との間に子を作ったと思われるそう。


 そして天使側にも人間側にも認められなかった、あるいは人体実験など身に大きな危険が襲う恐れがあるから、と僕の住んでいた村の近くに捨てたのではないか、ということ。


 つまり・・・僕は二度捨てられたってことなんだ。


 生みの親には顔もわからないうちに捨てられ、育ての親には散々罵られながら捨てられた。二回捨てられたこと。これは14歳の子の心にはつらすぎる現実だった。






















 ・・・僕の生きる意味って何なんだろう?







































「―――タ君?・・・ハルタ君?」


 ・・・・・・はっ!!?い、いま僕は―――!?


 何を、考えて・・・?


「ハルタ君?どういたしました?」


 あ・・・ルシフィロスさん。この人なら・・・僕の質問に答えてくれるかもしれない。


「ルシフィロスさん。もう一つ質問していいですか?」

「ええ。構いませんよ。」


 親や友達に聞いても多分曖昧な答えしか返ってこない。


「僕は生まれてすぐに捨てられ、拾われてからも不自由な生活が続いて、散々虐められて、散々罵られて捨てられました。」


 でも。でも、人間よりずっと長生きする堕天使なら。


「周りの子はやりたいことができて、幸せに暮らしてて。貴族の人は不自由なく生活できて。生まれによって差があるのは理解してますし、文句を言っても仕方がないというのはわかっています。」


 でも・・・

 でも、それなら僕の人生はその人たちが受けなかった不幸を背負うこと?

 わからない。だから―――


「僕の辛い人生の意味って、何なんでしょうか?」

「ほう・・・人生の意味、ですか。難しい質問ですね。」


う~ん、と考え込むルシフィロスさん。

数分後、あくまで、堕天使の間での考え方だというのはわかってほしいのですが。と前置きしたうえで、ルシフィロスさんの答えを教えてくれた。


「私が思うに、辛いか楽かに関わらずこの世で生きるのは魂の試練だと考えています。この世で生きることで魂の鍛錬をするのです。なぜなら、この世は常に理不尽で溢れています。いきなり災難が降りかかることなどざらにありますし、命を落とすことだってあります。」


「降りかかる災難には、気を付ければ回避できるものからどうしようもないものまでありますが、ここではどうしようもないものに限定しましょう。その災難で自分の大切な人やモノを失ったり、あるいは、強いストレスを受けるものに遭遇することで、少しづつ魂は強くなるのです。」


「ですが、先ほどハルタ君が申したように、人生1つとったとしても不自由のないものから波乱にあふれたもの、幼くして命を落とすものまでさまざまです。ここでハルタ君に質問。不自由のない人生と波乱にあふれた人生、どちらが魂がより鍛えられると思いますか?」


「そりゃ、波乱にあふれた方が鍛錬にはなると思います。」


考えるまでもない当たり前のことだ。


「そうですよね。では、魂を最も早く鍛えるためには、理不尽を受け続ける人生を繰り返す、ということになりますね。でも、そんな人生ばかりでは、魂も疲れ切ってしまうと思いませんか?」


僕はうなずく。だって、自分がつらいと思うことを起きてから寝るまでずっとしているのと同じだ。疲れないわけがない。


「ですから、魂はたまに、『一回休み』という選択肢を取ります。これは、人生を過ごすものの貴族のように不自由のない、ストレスの少ない生活をすることで魂の鍛錬を一回お休みするのです。そうすることで疲れを回復し、また次の人生鍛錬に挑むのです。」


ですが、とルシフィロスさんは続ける。


「その『一回休み』の人生では魂は成長しません。成長する糧がないのですから当然ですよね。ですから、人生において『鍛錬をしているのだから辛いのは当然』であり、『辛くないのは幸せ』なのです。ハルタ君のように生まれてからずっと辛い人生だってあります。いきなり絶望に淵に叩き落されることもあります。それも試練なのです。」


人生は試練・・・辛くて当然・・・そっか。辛くないって幸せなんだ。

ちょっと体が軽くなった気がした。


「そして、不自由のない生活をしている者がどうしても羨ましくなってしまった時は『自分は先に鍛錬してるから、君は頑張って追い上げろよ』とか、『辛い人生を乗り越えたんだな。思う存分ゆっくりしてね』と思うと気分が楽になるかもしれませんね。」


さぁ、と一区切りおいて。


「これが私の答えになります。納得のいく回答になりましたか?」

「・・・はい!」


それと、もう1つお願いしたい、いやしなければならないことがある。


「ルシフィロスさん。1つお願いを聞いていただいてもよろしいですか?」

「私にできることならば。」


「今この瞬間から、僕をハルタ・アランではなく、ハルラス・クローバーとして接してください!」



――――――――――――――――――――――――――――――


ルシフィロスの言葉には続きがあって、『もしこの場で死ぬ運命でなければ必ず道が開ける。もし開けずに死んだとしてもそれは運命であり魂を大きく成長させる。そして、自死だけがそれを大きく狂わせる。自死は鍛錬の放棄と同じであり、魂がその場に取り残される。だから、死ぬ気で生きなさい』


これは、ルシフィロスからハルラス君へのアドバイスであり、いるかわかりませんが波乱にあふれた人生を送っている読者への作者からのエールです。


僕もそこそこに頑張っています!一緒に頑張りましょう!

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