或る英霊の人生模様見聞録
猫の灯籠
第1話 英霊『堕天使《ルシフィロス》』との出会い
・・・・・・・・・・・・・・・
水が滴る暗い洞窟の中。
1人の少年が意識を失い横たわっていた。
「・・・・・・ううぅん・・・ここどこ?・・・イタっ」
やがて意識を取り戻し、ゆっくりと体を起こす。
手をついたところにたまたま鋭い石があり、手に刺さってしまう。幸い血は出ていないようだ。
「(なんで僕、こんなところに・・・・・・)」
まだ意識はあまりはっきりしないながらも、何故こんなところに自分が居るのか思い出す。
「(あ、そうだ・・・僕・・・親に捨てられたんだった)」
自らの両親に「いらない子」と罵倒されながら、ここまで無理やり引きずられてきたことを思い出す。涙が出てきた。両親の罵倒には慣れたと思っていたが、流石にこれは堪えた。
思い出すと同時に、ここは恐らく裏の山の洞窟の中だろうと推測する。少年が知る限り、村から行ける暗くて大きい洞窟はここしか知らない。
「でも・・・なんで」
しかし、少年は両親が取ったこの選択に些か疑問を抱いていた。
ここも決して安全というわけではないが、この少年が住んでいた村の周りにはもっと危険な場所がある。さっさと消したいならそこに放り込めばいいのに。
それだと自分たちの身が危ないから?いや、でもあの2人はあの森に仕事で出入りしていた。安全なルートも知っているはず。じゃあなんで・・・?
何故ここを選んだのか、少年はまだ起ききっていない頭で考えたが結局それらしい答えは見つからず、とりあえず辺りを調べることにした。もしここが裏山の洞窟であるなら、あのキノコが生えているはず。確かこの近辺ではここにしか生えないって兄さん言ってた。
しばらく探していると、ぼんやり光るキノコを見つけた。
「あ、あったあった。これだ。」
その名もホタルノヤド。ぼんやりと光っている手のひらぐらいの笠を持つ大きいキノコである。このキノコがあるということはここが裏山の洞窟であることは確定である。
「(と言っても、広すぎてどこに行ったらわからないんだけどね)」
分かったところで、って感じだなぁ。とぼやく。
そんな時だった。
「・・・・・・うん?なんだあの光・・・?」
洞窟の隅にある小さな祠のようなものから、光が溢れているのを見つけた。場所が場所なので警戒を強めるが、何故か光から温かみを感じられた。
「(これは・・・封印されている?しかも、かなり無理やり・・・)」
なにやらよくないエネルギーで封印しているようで、しかも、劣化が激しく少し触るだけで封印が解けそうな状態である。放置するのも、なんならここにいるのも危険かもしれない。
「でも・・・この光が封印の中にいる人のものなら・・・たぶんその人は悪い人じゃない。」
理由はわからないが、何故かそう断言できる自信があった。
なので、少年はその自信に従って封印を解いてみることにした。
「わっ、崩れちゃった・・・って。ま、眩しっ」
封印に触れてみると、少年の見立て通り封印は崩れてしまった。
中から溢れた強い光に呑まれ目の前が真っ白になる。
「おや・・・ここは・・・久方ぶりの常世ですか。」
光がやむと、目の前にはすらっとした長身、女性に見間違うほどきれいな顔つきに長い銀色の髪。しかしながら声は低く落ち着いていてその鍛え上げられた筋肉は白いシャツの上からでもわかるくらいついている。
そして・・・
バサッ
背中にはきれいで大きな黒い羽根が片方だけついており、頭の上には黒い輪っかがついている。赤い切れ長の目を長い前髪が少し隠している。
そしてその当人はというと・・・
「体は・・・死んでいてもう無い。けど実体はある・・・不思議だ。実体のある霊として蘇った、ということか・・・?確かにこの魔力濃度ならあり得る・・・しかし・・・」
さっきから一人で何かをぶつぶつしゃべっているが、早口で声が小さいせいで何をしゃべっているのか全然聞き取れない。
このままずっと過ごすのはさすがにいたたまれないので、少年は勇気を出して話しかけてみることにした。
「・・・あ、あの~・・・(いきなり怒る人じゃありませんように!)」
「おや?あなたは・・・あぁ、封印を解いてくれた方ですね。つい、自分の世界に入ってしまいまして。挨拶もせず申し訳ありません。」
案外普通に返事をしてくれた。露骨に安心する少年
「い、いえその・・・大丈夫、です。(よかった、少なくとも怒りっぽい人じゃないみたい)」
「お初にお目にかかります、ルシフィロスと申します。
そして、しっかり敬語で自己紹介された。
これには少年も丁寧な言葉で返さないと失礼になるかもしれないとオロオロし始める。
「もしよろしければ、あなたのお名前を聞かせていただいても?」
うっ、と言葉に詰まる少年。大人たちの会話を聞いていたためある最低限丁寧な言葉使いはわかるものの、如何せん田舎の村で生活していたためマナーなどは一切わからない。
「え、えっと、ぼく・・・じゃなかった。私はハルタ・アランといい、申します。今年で14歳になります。家族や友達にはハルと呼ばれています。父と母は狩人で、兄と妹が1人ずついます。」
慣れない敬語のため、無理をして丁寧に話しているのはある程度経験を積んだ大人であれば言わずもがな気づくものである。もちろんルシフィロスも気づいていた。
しかし、少年が一生懸命頑張って丁寧に話そうとしている様が永い時を生きた堕天使には非常にほほえましかった。
「ふふっ、言葉使いは気にしなくて構いませんよ。むしろ、私のせいで緊張させてしまいましたね。すみません。」
「いえいえ・・・その、全然。大丈夫です!」
いきなり謝られて恐縮する少年。
「お詫びに、何でも質問していただいて構いませんよ」
ニコニコ、いや若干ニマニマした笑みで提案するルシフェロス。
彼としては半分からかっただけのようだが、少年は質問・・・?と生真面目に考える。その姿を見てさらに笑みが深くなる堕天使。
「え、ええと・・・あ、そうだ。が、がーでぃ、おぶ?」
「Guardian of Life、ですか?」
「あ、はい。それです。それってなんなんですか?」
「私に与えられた称号、ですね。私はそこまで偉大なことを成し遂げた気は一切ないのですが、勝手に与えられてました。」
「な、なるほど・・・」
この堕天使はそう言っているが、戦争を仲裁し終わらせたり、テロ組織の大量虐殺計画を事前に止めたりと割とすごい功績を残している。ちなみに、称号についても『与えられた』わけではなく『民衆が勝手に言い始めた』が正解である。
「えっと、じゃあ、ルシフェロスさんは、なんでこんなとこで封印されていたんですか?」
「う~ん、話せば長くなりますねぇ・・・簡単に言えば、死んだ後もなんとか生命を守ろうとしていたら、誰かに勝手に封印された・・・といったところでしょうか。」
「勝手に・・・やっぱり」
「(やっぱり、ということはハルタ君は気づいていたということか?)」
驚いたように若干眼を見開く堕天使。
なぜなら、人間の魔力を感知する能力はあまり高くないため、封印されたということはわかってもそれ以上はわからない場合がほとんどである。
それがわかっているということは、彼が類稀なる才能を持ち合わせているのか、はたまた彼に人間以外の血が混じっているのか。
「(ふむ・・・人間ではない可能性は・・・十分にある。ハルタ君には失礼ですが、『視て』みましょうか。)」
気になった堕天使は、心の中で謝りながら少年を鑑定した。
「(・・・!?まず名前から違う・・・しかもこの姓・・・)」
堕天使には何やら思い当たる節があるようである。
ちら、っと少年を盗み見る堕天使。
「?」
きわめて純粋な目でこちらを見てくる少年。名前を言ったときにも嘘を言っている気配はなかった。つまり、少年は自分が違う名前であるということを知らない、という可能性が高い。
「(おそらく少年は、幼い時に盗まれたか引き取られている。そしてその親代わりの人物が名付けた・・・)」
「え、ええとなんか僕、変ですか?」
「いえいえ。ただ、封印が勝手にされたということは基本わからない事なんです。それがわかるのはすごいなぁ、と思いましてね。」
これは堕天使の本心である。
そして、少年の反応を見るためのカマかけでもある。
「すごいっていわれても・・・」
「実感がありませんか?」
「はい・・・」
ということは少年にとってこれが普通だということ。おそらく生まれつき。
ここで堕天使は、大きく踏み込んでみることに決めた。
「ふむ・・・しかし、おかしいですね。私の知識の中では、あなたの名前はハルラス・クローバーとあるのですが・・・?」
「・・・・・・え?」
驚愕し固まる少年。どういうことかわからず混乱した結果・・・
「(ハルしか合ってないじゃん)」
現実逃避的に全然違うことを考えてしまった。
「そしてこのクローバーという姓なのですが・・・あなたは天使の血が混じっていると思われます。具体的には半分ほど。」
「(しかもそもそも人間じゃなかったし!!!)」
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新作です。
よろしくお願いします!
・ルシフィロス
堕天使の長を務めた史上最強の堕天使。態度は紳士的だが超強い。
遠距離も近距離もタイマンも殲滅もできるオールマイティ。
趣味は人間観察。本人曰く「理性と本能の板挟みで生きている様が面白く、どうしようもなくなった時の底力が美しいから。」だそう。
名前はルシファーと某最後のファンタジーのラスボスの某片翼の天使さんからとった。
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