第13話 時間と生物 その3
周囲の音が急に消え、世界が再び静止した。
時間が止まった瞬間、周囲の景色が静止画のように凍りついたように見える。
よし……時は止まった……
世界が静止し、全てが静まり返る中で、視界に飛び込んできたのは、宙で静止しているナイフだった。鋭い刃が光を反射し、空中で微動だにせず停止している。そのナイフは、ソフィアの前のところで止まっている。
俺は瞬時に状況を把握する。おそらく湊が何かをナイフに変換し、ソフィアに向かって投げたのだろう。いい判断だ。だが、ここでひとつ問題がある。
俺の胸に一瞬、冷たい恐怖が走る。だが、同時に湊の判断を信じる気持ちも強く感じた。
この状況で即座にナイフを投げる決断は、攻撃のチャンスを生み出している。俺はその判断を信じ、次の行動に移ることに決めた。
俺は一気にソフィアの背後へと移動し、時が動き出す瞬間に備え、ナイフがソフィアの方に確実に命中するように、強く蹴りを入れる。
6秒が経ち、世界が再び動き出す。その瞬間、止まっていた時間の中でやった俺の蹴りがソフィアに伝わる。衝撃が彼女に襲いかかり、その体は180°回転してナイフの方向へ体が飛び、ナイフがその背中に深々と突き刺さった。
刃が彼女の皮膚を貫いている。
ナイフは確実に彼女の体内に侵入し、そのまま深くまで食い込んだ。ソフィアの口から低い呻き声が漏れ、彼女の体が一瞬硬直する。
俺はナイフがソフィアの背中に深く突き刺さったのを確認しながらも、心の中で不安が募る。
ソフィアは余裕そうな笑みを浮かべながら、ゆっくりと振り向く。背中に刺さったナイフにを引き抜き捨てる。
血が流れているのに痛みを感じていないかのように平然としている。その態度が、不気味さを強調している。
頭の中で、次の一手を考える。このままソフィアと戦闘に突入すれば、透の安全が脅かされる可能性が高い。しかし、今の俺達は三人だ――湊がいる。
俺は振り返り、湊に短く指示を出す。緊張で声が少し硬くなったが、湊はすぐに理解してくれた。
湊はすぐに透に駆け寄り、彼女の応急処置を試みる。その姿を横目に見ながら、俺は再びソフィアに注意を集中させる。
今、俺がやるべきことはただ一つ――──────
目の前のこいつを殺ることだ。
俺はソフィアを睨みつける。彼女は余裕そうに笑みを浮かべながら、俺の方をじっと見つめている。冷静で、まるでこちらの動きを楽しむかのようだ。
俺は少しでも彼女の能力を探ろうと問いかける。だが、ソフィアは首を軽く横に振りながら、口元に不敵な笑みを浮かべた。
俺はソフィアの言葉を聞き流しながら、どう戦うべきかを頭の中で組み立てていた。生物の特性を使えるということは、あの触手だけじゃない。翼を生やすこともできるかもしれないし、他の動物の能力を使ってくる可能性もある。
ソフィアが不満そうに声をかけてきた。頬を膨らませたその表情は、まるで子供のようだった。不気味さを感じさせるその無邪気な態度が、逆に俺の中で嫌な予感をさらに膨らませた。
俺はソフィアを睨みつけながら答える。だが、彼女はその返答に満足せず、さらに不満げな表情を浮かべた。まるで反応を待ち望んでいるかのようだ。
彼女は頬を膨らませながら、まるで子供が拗ねるように言った。
だが、その姿には何か狂気じみたものがあった。無邪気さと危険さが同居しているようで、その背後に潜む何かが明らかに見え隠れしている。
無邪気すぎる態度は資質の副作用か?だったら……
心の中で警戒心がさらに高まる。ソフィアの振る舞いには理性の欠片が感じられない。
少しでも情報を引き出そうと、俺は冷静を装いながら問いかけた。ソフィアの動機を知ることで、彼女の行動を予測できるかもしれない。
彼女はしばらく俺をじっと見つめ、口元に不気味な笑みを浮かべる。そして、その答えをまるで秘密を暴露するかのようにささやいた。
ソフィアはそう言いながら、手を自分の胸に当てた。彼女の目には、まるで欲しいものを見つけた子供のような好奇心と狂気が入り混じっている。
俺は彼女の言葉を頭の片隅に置きながら、視線を外さずに警戒する。今、何を狙っているのか、その行動の次が読めない。不気味なほど落ち着いているが、その裏に潜む危険な兆候が俺の肌を刺すように感じられた。
彼女の口調が冷たくなり、背筋が一瞬凍るような感覚に包まれた。冷たい目で俺を見つめ、次の瞬間には笑みを浮かべたが、その笑顔に温かさなど感じられない。
そう言った瞬間、ソフィアの目が一瞬光を失ったかのように冷たくなり、その腕からは触手のようなものが伸び始めた。最初は静かに、だがすぐにその動きは凄まじく速くなり、俺の方へと迫ってきた。
危ねぇ……ギリギリ間に合った。
世界が静止し、すべてが凍りついたような感覚に包まれる。
だが、油断はできない。ソフィアの触手は目の前でピタリと止まっているが、その動きの速さからして、動き出せば即座に俺を捕らえるだろう。
こいつ……わざと急所を外してやがる。心臓は狙わず、腹を狙っている。痛みと出血は避けられないが、命は取らない。
つまり、こいつの狙いは本当に俺の
考える時間はない。
まずはこの触手だ。こいつが動き出せば、俺の一瞬のミスでも致命傷になる。止まっている中ではただの触手だが、伸びてくるスピードを考えれば、無視できる相手じゃない。
俺は静かに近づき、触手に鋭い手刀を入れる。
再び動き出した瞬間には、触手を無力化しておく。
7秒経った、時は再び動き出す。
ソフィアの触手が地面に叩きつけられた。
土が舞い上がる中、彼女の口元に不敵な笑みが浮かぶ。だが、今までのような余裕はない。俺が触手を切り裂いた衝撃で、明らかに彼女の動きに乱れが生じている。
ソフィアは距離を一気に詰め、左の拳を重く突き出す。
俺はその拳を腕で受け止める。
瞬間、骨にまで響く重い衝撃が走る。
衝撃が伝わった瞬間、腕の皮膚が裂けるような感覚があり、赤い血がにじみ出た。痛みが骨の芯にまで届き、じんわりと痺れが広がる。
ソフィアの力は予想以上に重い。これも動物の力か?
拳の熱さが肌に残り、肉が抉られたような感覚がさらに痛みを増幅させる。
その声は甘く、まるで俺を挑発するかのように響く。俺は息を整えながら、腕の痛みに集中しないよう意識を逸らす。鼻にかすかに鉄の匂いが漂う――自分の血の匂いだ。
俺は口元に薄く笑みを浮かべた。確かに、時間を止めた後には約10秒のクールタイムがある。しかし、それを敵に確信させるわけにはいかない。ソフィアはおそらく、そのタイミングを狙って決着をつけようとしている。
体中が緊張し、肌には冷や汗が浮かぶ。ソフィアの目は鋭く、まるで俺の動きを全て見透かしているかのようだ。
俺は内心で戦術を組み立てる。ソフィアの攻撃が重いのは確かだが、彼女の油断が致命的な隙を生む。10秒……それまでの間に何を仕掛けるか。それを計算しながら、次の瞬間を待つ。
俺が次の一手を考えている間も、ソフィアはじわじわと距離を詰めてくる。冷たい笑みを浮かべながら、その目には油断が全くない。こちらを貫くように見つめ、次の攻撃のタイミングを狙っているのが分かる。
だが、その時
背後からまぁまぁ聞き慣れた声が響いた。
湊が息を切らしながら走り込んでくるのが見えた。顔には焦りが浮かんでいるが、その手にはしっかりと何かを握りしめている。
俺は短く言い、湊を見た。
俺は一瞬だけ湊に視線を向けて問う。透のあの状態を見た後、湊がどうしたかは気になっていた。
湊の言葉に安堵と焦りが入り混じる。
透が無事なら、それだけでも今は十分だ。
俺は短く頷き、再びソフィアへ視線を戻す。湊も息を整え、俺の隣に並んで構えた。その目には迷いがない。
湊は頷き、そしてその手に握っていた物を掲げた。小さな石ころだ。だが、湊の資質ならそれは――
湊が石を指で弾き飛ばしソフィアに向かい飛ばしそう呟く。
その石は鋭利なナイフに変わりソフィアの頬をかする。
ソフィアは挑発的に言い放ちながら、再び前に進み出す。
俺たちは一瞬視線を交わし、次の動きを計る。
ソウルパーク 石が刻まれた十二人 霜月二十日 @tadanosyousetukaki
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