第20話 ネコ研究家登場!

「ねえ、ニャン吉。ちょっと聞いてよ」

 晩ごはんを食べ終え、リビングでくつろごうとしていたところ、恵子が話しかけてきた。

「今日の昼間、ママ友と近くのカフェでランチ食べたんだけど、その時に『あなた、猫カフェなんか経営して気楽でいいわね』って言われたのよ」

『にゃん!』

「猫カフェの経営がどんなに大変か知らないくせに、ほんと頭に来ると思わない?」

『にゃん!』

「だから私、言ってやったのよ。ウチには人間の言葉が分かるスーパー猫がいるって。そしたら、なんて言ったと思う?」

『にゃん?』

「『そんな猫いるわけないでしょ。ていうか、もしそんなのがいたら、気味悪くて仕方ないわ』って言ったのよ」

『にゃ、にゃ、にゃ、にゃー!』

「まあ、それについては、私も一理あると思ったんだけどね」

『……にゃーん』

(おいおい。あんたがそんなこと思っちゃ、ダメだろ)

「でね、その人加藤さんって言うんだけど、彼女が他のママ友に言いふらして、みんなして私を嘘つき呼ばわりするのよ。ひどいと思わない?」

『……にゃん』

「ん? ニャン吉、なんか共感してないわね。もしかして、自業自得とか思ってる?」

『にゃん!』

「やっぱり、そう思ってるんだ。そりゃあ、ニャン吉のことを言ったのは、自分でも馬鹿だと思ってるよ。けど、私は本当のことを言っただけなのに、噓つき呼ばわりされるのは納得できないのよ」

『……にゃーん』

「こうなったら、ニャン吉を彼女の前に連れていって、人間の言葉が分かることを証明しようとも思ったんだけど、そんなことしても気味悪がられるだけだから、やめにしたのよ」

『……にゃん』

「でも、このままじゃ腹の虫が治まらないから、なんとかして彼女をぎゃふんと言わせたいんだよね」

(やれやれ。なんでオレが、こんなグチに付き合わせられないといけないんだよ。こんなの、太郎にでも言えばいいんだよ。けど、このままじゃ、恵子の機嫌がずっと悪いままだしな……)


 やがて恵子がリビングから出て行くと、オレはあまり気分が乗らないまま、久しぶりに【人の夢を操作する】能力を開放することにした。

 設定は、加藤っていう恵子のママ友に、ネコ研究家に扮したオレが、猫の能力をこんこんと説明するというものだ。

 オレは早速加藤に夢を見させると、その中に入り込んだ。

「あなた、聞くところによると、人間の言葉が分かる猫なんていないと思ってるそうですね」

「そうですけど、あなたどなたですか?」

「私はネコ研究家の猫田猫助という者です。猫が好きなあまり、先日改名しちゃいました。はははっ!」

「……そのネコ研究家が、私に何の用ですか? ていうか、あなたどうやってこの家に入ったんですか?」

「あなたに知られざる猫の能力を教えてあげようと思いましてね。実は、猫は人間の言葉が分かる他に、字も読めるんですよ」

 オレは自分だけが持っている能力を、さも猫全員が持っているように言った。

「そんな馬鹿な……じゃあ、なぜそれが広まってないんですか?」

「都合が悪いからです。猫はとても賢い生き物でしてね。人間の言葉が分かったり、字が読めたりしたら、人間から気味悪がられることを本能的に知ってるんです。ちなみに、もしそんな猫がいたら、あなたはどう思いますか?」

「……気味悪いです」

「そうでしょ。大半の人間はそう思うんです。なので猫たちは、その能力を封印して、何も分からないような顔をして生きてるんです」

「それが事実として、なぜ私に教えようと思ったんですか?」

「あなた先日、猫は人間の言葉が分かるって言った人を噓つき呼ばわりしたでしょ? 私はそれが許せなくて、わざわざ教えにきたんですよ」

「なぜあなたが、そんなこと知ってるんですか?」

 彼女のもっともな質問に、オレはあらかじめ用意していたセリフを言う。

「風の噂です。あなたが方々に言いふらしてるせいで、私の耳にも入ってきたんですよ」

「……分かりました。猫にそのような能力があることは十分に分かりましたから、もう帰っていただけませんか?」

「いえ。あなたが約束してくれるまでは、まだ帰るわけにはいきません」

「約束?」

「ええ。噓つき呼ばわりしたこを本人に謝ったうえで、言いふらした人全員に訂正してください。その際、周りから変人扱いされるかもしれませんが、それは自業自得だと思ってあきらめてください。どうです? 約束できますか?」

「お断りします。私は変人だと思われたくないので」

 きっぱりと言い切る彼女に、オレは最後の手段に出る。

「そうですか。じゃあ仕方ありませんね。知り合いの猫山猫男さんに頼んで、今夜から毎日あなたの夢の中に化け猫を登場させます」

「えっ! あのう、化け猫とはどういう……」

「映画とかで見たことないですか? もちろん、アニメじゃない方ですよ」

「私、ホラー映画は苦手なので……」

「それはちょうどよかった。先入観がない方が、より恐怖を味わえますからね」

「……分かりました。言われた通りにしますので、許してください」

「そうですか。では化け猫の件は勘弁してあげます。これからはくれぐれも人を馬鹿にするようなことはしないでくださいね」

「……はい」

(これだけ言っておけば、大丈夫だろう)

 加藤の憔悴しきった顔を尻目に、オレは現実へと戻った。


 翌日の夕方、仕事を終えて家に帰ると、恵子が笑顔で近づいてきた。

「ニャン吉! 今日加藤さんが、私を嘘つき呼ばわりしたこと謝ってくれたの! でね、その後、言いふらした人たちに訂正して回ったみたいなんだけど、そのせいで今度は彼女が噓つき呼ばわりされてさ。ほんと、いい気味よね。あははっ!」

『にゃん!』

「気分がいいから、今日はいつものより高いキャットフード買ってきたんだ。ニャン吉、お腹減ってるでしょ? 遠慮せず全部食べていいからね」

『……にゃーん』

「ん? どうしたの、なんか元気がないわね。あっ、分かった。あんたまた、おやつ食べ過ぎたんでしょ? しょうがないわね。じゃあこれは他の子にあげるから、あんたはもう寝なさい」







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