第16話 タマとの激しいバトル
「はあ? 告白できなかっただって? お前、何やってるんだよ!」
翌朝タンゴに、ミーコに告白できなかったことを報告すると、烈火のごとく怒り出した。
「まあ、そう言うなよ。オレが一番そう思ってるんだからさ」
「お前らが早くカップルになってくれないと、おれとカシコの仲も進展させられないじゃないか。そこのところ、ちゃんと分かってるのかよ」
「うるせえな。そんなにカシコとカップルになりたいのなら、お前自身の力でなんとかしろよ」
「それができないから苦労してるんだろ。開き直ってないで、もう一回チャレンジしろよ」
「だから、それは無理なんだよ。ミーコの家族に、もう関わるなって言われたんだから」
「じゃあお前、ミーコのことあきらめるのかよ」
「そんなわけないだろ。ほとぼりが冷めたら、またガンガン行くつもりだ」
「お前、そんな悠長なこと言ってていいのか? 噂によると、タマがミーコのこと狙ってるみたいだぞ」
タンゴのまさかの言葉に、オレは一瞬自分の耳を疑った。
「はあ? お前、冗談はやめろよ」
「そう思いたい気持ちは分かるけど、どうやら本当みたいだぞ。現に、タマがミーコのことを口説いてるのを見たってやつが何匹もいるからな」
「マジかよ! あいつ、身の程知らずもいいところだな」
「確かにあいつはまだ子供だし、時々奇行に走ったりもするけど、客からは人気あるからな。そう侮ってもいられないぞ」
「それなら大丈夫だよ。ミーコがあんなやつ相手にするわけないからさ」
口ではそう言いながらも、積極的な行動に走るタマに、オレは一抹の不安を感じていた。
やがて仕事を終えると、オレはすぐさまタマに声を掛けた。
「ちょっと話したいことがあるんだけど、いいか?」
「いいですよ。ぼくもちょうどニャン吉さんに話があったんです」
「そうか。じゃあ、外で話そうぜ」
そのままタマを近くの公園に誘導すると、早速本題に入った。
「タンゴから聞いたんだけど、お前ミーコのこと狙ってるんだってな」
「そうですけど、それが何か?」
「お前みたいなやつがミーコに相手にされるわけないだろ。とち狂ってんじゃねえよ」
「じゃあ、ニャン吉さんなら相手にされるっていうんですか?」
「当然だろ。まだカップルにこそなっていないが、既にデートもしてるしな」
「でもニャン吉さんは、昨日やらかしたせいで、ミーコさんの家族から嫌われてるんでしょ?」
「それがどうした? たとえ家族に嫌われても、オレたちが好き合っていれば、なんの問題もないだろ」
「そう都合よくはいかないんじゃないですか? 現に人間の世界では、家族の反対にあってダメになることがよくあるって聞きますし」
「オレたちと人間を一緒にするんじゃねえよ。オレとミーコは、ちょっとやそっとでは離れない固い絆で結ばれてるんだよ」
「そう思っているのはニャン吉さんだけで、ミーコさんはそんなこと思ってないですよ」
「なんだと? なんでそう言い切れるんだ?」
「前にミーコさんが言ってたんですよ。ニャン吉さんの考えてることが分からないって」
「…………」
(ミーコのやつ、なんでそんなこと言ったんだろう。オレの気持ちは分かってるはずなのに……)
ミーコの真意が分からず戸惑っていると、突然タマが腹を抱えて笑い出した。
「はははっ! 軽い冗談なのに、なに本気にしてるんですか。そんな不安げな顔しないでくださいよ」
「……お前、ほんと性格の悪いやつだな。そんなんじゃ、ミーコから好かれないぞ」
「それなら大丈夫です。ぼくが素の自分を見せるのは、ニャン吉さんだけですから」
「じゃあ、お前の本性をミーコにバラしてやろうか?」
「どうぞ。そんな告げ口のようなことをして、ミーコさんに嫌われてもいいのなら、お好きにどうぞ」
ああ言えばこう言うタマに、オレは半ば呆れながら返す。
「……ほんと、お前の性格の悪さは天下一品だな」
「ありがとうございます。お褒めにあずかり光栄です」
「褒めてねえよ! それより、お前の話ってなんだよ」
「ミーコさんのことです。今のところ、彼女の心はニャン吉さんに傾いているみたいですが、いつか必ずぼくの方に引き寄せてみせますから」
「ほう。それは宣戦布告というやつか?」
「そう捉えてもらって結構です」
「じゃあお前は、これからもずっとミーコを狙い続けるつもりか?」
「はい。ていうか、さっきからずっとそう言ってるじゃないですか」
「でもお前、どうやってミーコの心を掴もうと思ってるんだよ。何か作戦でも考えてるのか?」
「ええ、まあ。ぼくはまず、ミーコさんの家族に気に入られようと思っています。そしたら、ミーコさんとの交際もスムーズに運べそうですしね。いわゆる、外堀を埋めるというやつです」
「その方法を具体的に言ってみろよ」
「言うわけないでしょ。なんでわざわざ恋敵に教えないといけないんですか」
「そんなこと言って、お前本当は何も考えてないんだろ?」
「ぼくの言ってることがハッタリだというんですか? 舐めないでください。ぼくはちゃんと考えてるんですから」
「じゃあ言ってみろよ。たとえ聞いたからといって、お前の真似をするようなせこいことはしないからさ」
「それ、本当ですか? もし真似したら、ミーコさんに告げ口しますよ」
「お前さっき、告げ口するようなやつは嫌われるって、言ってなかったか?」
「ぐっ……分かりましたよ。言えばいいんでしょ」
「ああ。言えばいいんだよ」
「じゃあ言いますよ。ぼくが考えている作戦はずばり……」
「ずばり?」
「『家族に取り入って気に入られよう作戦』です」
「…………」
オレは(そのまんまやないかい!)という心の声を懸命に抑えながら、その後に続く内容に耳を傾けた。
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