第14話 告白するならロマンチックな場所で

 休日の昼下がり、リビングで次郎と一緒にテレビを見ていると、タンゴがニヤニヤしながら近づいてきた。

「どうした? 何かいいことでもあったのか?」

「いいことねえ。まあ、あったといえば、あったかな。はははっ!」

 高笑いするタンゴに、オレは「もったいぶってないで、早く言えよ」と促した。

「まあ、そんなに聞きたいのなら、教えてやるとするか。実は昨日、カシコが『あんたって、意外と男気があるんだね。見直したわ』って褒めてくれたんだよ」

「男気?」

「ああ。この前、カシコをめぐって、客同士が揉めたことがあっただろ? その時におれが間に入ったことが、嬉しかったみたいなんだ」

「ふーん。 じゃあ最初に与えた悪い印象は、もう無くなったってことか?」

「多分な」

「じゃあこれから、ぐいぐい攻めればいいじゃないか。今度デートに誘ってみろよ」

「それはちょっと早くないか? もし断れたら、気まずいじゃないか」

「ぐずぐずしてると、他のやつに取られちゃうぞ。それでもいいのか?」

「それなら大丈夫だ。店の中で、おれの他にめぼしいやつはいないからな。それより、お前はどうなんだ。ミーコとうまくやってるのか?」

「ああ。この前も一緒に祭りに行ったよ。けどまあ、その時は次郎もいたから、愛の告白まではできなかったんだけどな」

「ということは、まだカップルにはなっていないのか?」

「まあな。けど、それも時間の問題さ」 

「じゃあ、おれを助けると思って、一日でも早くカップルになってくれよ」

「はあ? それ、どういうことだよ」

「お前らがカップルになって周りに見せつければ、カシコも触発されて、その気になるかもしれないだろ?」 

「ああ、そういうことか。分かったよ。じゃあお前らがカップルになれるよう、一肌脱いでやるよ」

 そう言うと、タンゴは小躍りして喜んでいた。


 翌日の開店前、オレは昨日タンゴに頼まれたことを、ミーコに詳しく説明した。

「ふーん。それでタンゴのために、一肌脱ごうって思ったのね」

「そうなんだよ。だからここはタンゴが幸せになるために、是非ともカップルになってあげようじゃないか」

「言ってることは分かるけど、それだとタンゴをだしに使ってるみたいで、なんかスッキリしないわ」

(さすがに簡単にはいかなかったか。となると……)

 オレは楽な考えを捨て、正攻法でいくことにした。

「言われてみると、その通りだな。じゃあ前から考えていたことを、今から実行するよ」

「ちょっと待ってよ。まさか、こんなにみんなが見てる前で告白する気?」

「嫌か?」

「当然でしょ。ここじゃ、ロマンチックのかけらもないじゃない。どうせなら、もっと雰囲気のある所で告白してよ」

「……分かったよ」

 結局オレは、ミーコとカップルになれなかったうえ、告白する場所まで考えなくてはいけなくなってしまった。


 仕事を終えた後、リビングの隅でミーコへの告白をどこでしようか考えていると、恵子が不機嫌そうな顔で近づいてきた。

「ニャン吉、ちょっと聞いてよ。太郎のやつ、今日が結婚記念日ってこと、忘れてたのよ」

『にゃん!』

「ニャン吉もひどいと思うでしょ? だから私、言ってやったのよ。『もう私のこと愛していないのね』って」

『……にゃーん』

「そしたら、なんて言ったと思う?」 

『にゃん?』

「『俺はお前だけを特別扱いしない。次郎やここにいる猫たちも、すべて平等に愛してるんだ』って言ったのよ。これって絶対、結婚記念日を忘れてたことを言い訳してるだけだよね?」

『にゃん、にゃん、にゃん、にゃーん!』

「やっぱり、そうだったのね。でもあいつ、昔はこんなやつじゃなかったのよ。付き合っていた頃から、記念日は何よりも大切にしてたし、結婚してからも毎年欠かさずプレゼントをくれてたんだから」

『……にゃーん』

「それとあいつ、顔に似合わず、ロマンチックなところがあってさ。まだ私たちが付き合う前、あいつどこで私に告白したと思う?」

『にゃん?』

「なんと、車に乗って他県まで行って、夜景がすごくきれいな場所で告白してくれたのよ」

『にゃにゃにゃにゃーん!』

「あははっ! それ、もしかして【運命】を表してるの? 実は私もこの時、運命感じちゃってさ。即OKしちゃったんだよね」

『にゃーん』

「ああ、なんかニャン吉に話したら、すっきりしたわ。今回は特別に許してやることにしようっと」

 そう言うと、恵子は清々しい顔でリビングから出て行った。

(太郎に、まさかそんなロマンチックな一面があったとはな。……ん、待てよ。夜景とまではいかないが、たしかこの辺に夕日がきれいに見える場所があったな。そこにミーコを連れて行けば……よし、決めた! 明日仕事を途中で抜け出して、ミーコとそこへ行こう)

 ひょんなことから絶好の告白場所が決まり、オレのテンションは爆上がりしていた。


 


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