第11話 令和ナンパ対決(後編)

 程なくして病院跡地に着くと、そこは外観からして怪しげな雰囲気を漂わせていて、何とも言えない不気味さを感じた。

(なんか薄気味悪い所だな。本当にメス猫がこんなところで暮らしてるのかよ)

 オレは疑心暗鬼になりながら、中へと入っていった。

 階段を駆け上がり二階まで行くと、ある病室にベッドが残っていて、その上で何匹かのメス猫が昼寝をしていた。

(寝てるのを無理やり起こすのは、あまりにも可哀想だよな。かといって、起きるのを待ってる時間はないし……)

 途方に暮れながら、しばらく彼女たちの様子を見ていると、その中の一匹が突然目を覚ました。

「ん? あんた、誰?」

「オレはスーパー猫のニャン吉だ。で、君の名前は?」

「ミケだけど」

「じゃあミケちゃん、今からオレと公園デートでもしようじゃないか」

「はあ? なんでそんなことしなくちゃいけないのよ。ていうか、スーパー猫って何?」

「毎日のようにスーパーの売れ残った魚を分けてもらってたら、いつしかそう呼ばれるようになったんだよ。……って、そうじゃなーい!」

「はあ? あんた、何やってるの?」

「……まあ今のは冗談で、本当はオレは人間の言葉が分かるし、字も読めるんだ」

(おかしいな。今のセルフツッコミはウケるはずだったんだけどな)

「うそっ! じゃあ、テレビとか出て、バンバンお金を稼げるじゃん」

「いや。たとえテレビに出たとしても、金をもらえるのは飼い主だけで、オレは精々その金でチョールを買ってもらうくらいなもんさ。たったそれだけのために、わざわざテレビ局まで出掛けるのは馬鹿らしいし、テレビに出て下手に有名猫にでもなったりしたら、おちおち外も歩けなくなるだろ? だからオレはテレビには一切出ないんだ」

「ふーん。じゃあ、そんな能力を持っていても、あまり意味がないね。いわゆる、宝の持ち腐れってやつ?」

「そんなことないさ。人間の言葉が分かれば、相手の望んでいることをやってあげられるじゃないか。けどまあ、それでよく利用されたりもするんだけどな」

「まあ、あんたが特殊な能力を持ってることは分かったけど、それでいきなりデートっていうのは、調子がよすぎるんじゃない?」

「そんなこと言わないで、行こうぜ。どうせ、ヒマなんだろ?」

「ヒマじゃないわよ。今から食料を調達しないといけないんだから」

「じゃあ、付いてきてくれたら、後で食料を分けてあげるよ」

「それ、本当? で、どこから調達する気なの?」

「オレ、猫カフェで働いているから、店に帰ればおやつがいっぱいあるんだよ」

「ふーん。あんた、猫カフェで働いてるんだ。分かった。じゃあ、付いていってあげるよ」

「サンキュー。じゃあ、そろそろ時間だから、今から行こうぜ」


 そのままミケを連れて平成公園に行くと、さっきの親猫が子猫を連れて待っていた。

「おお、本当に来てくれたんだね。しかも子供まで連れてきてくれて」

「だって約束したから。それより、一匹しか連れてこれなかったの?」

「ああ。他のメス猫たちはみんな寝てたから、ナンパ自体できなかったんだよ」 

「それは残念だったわね。ちなみに、彼女はどうやって口説いたの?」

「渾身のセルフツッコミをして見せたんだよ。そしたら彼女、たちまちメロメロになってさ」

「はあ? あんた、何言ってんのよ。わたしはあんたがおやつをくれるって言うから、付いてきたんじゃない」

「……はは。まあ、そういう細かいことは、この際どうでもいいじゃん。それより、タンゴのやつ遅いな」

(タンゴのやつ、早く来てくれないかな。このままじゃ間が持たないよ)

 そんなことを思っていると、タンゴが大勢のメス猫を引き連れて、こちらに向かってくる姿が目に入った。

(なにー! なんであいつが、あんなにたくさん連れてきてるんだ?)

 その光景にしばし呆然としていると、タンゴが得意げな顔で近づいてきた。

「おやっ? お前、たったの三匹しか連れてこれなかったのか? しかも、そのうちの一匹は子猫だし。ギリその子猫をカウントしたとしても、おれの半分もいってないじゃないか。はははっ!」

 タンゴは全部で七匹ものメス猫を連れてきていた。

「見ての通り、おれの勝ちだな。約束通り、ミーコから手を引いてもらうぞ」

「…………」

 勝ち誇るタンゴにぐうの音も出ないでいると、ミケが「落ち込むことないよ。この勝負、あんたの勝ちだから」と言ってきた。

「えっ、それはどういう意味だ?」

「だってこいつ、自分の兄弟連れてきてるんだもん」

 そう言われてよく見ると、そのメス猫たちは確かにタンゴとよく似ていた。

「おやー? 兄弟をナンパするなんて、君は変わった趣味をしているね」

 皮肉たっぷりに言ってやると、タンゴはバツの悪そうな顔をしながら、メス猫たちとともに引き揚げていった。

「サンキュー。君が気付かなかったら、あのまま負けていたところだよ」

 オレはミケに感謝の意を伝えた。

「まあ、あんたに付いてきた手前、見過ごすことができなかったんだよ。それより、ちゃんとお礼はしてくれるんでしょうね」

「もちろん。チョールを中心にいろんなおやつがあるから、付いて来いよ」

 オレは彼女たちを【猫なで声】まで連れて行き、おやつをたっぷりと食べさせてやった。



 




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