第7話 能力開放!

 最近、次郎に元気がない。一緒に遊んでいても、どこか上の空だ。

『にゃーん、にゃん』

「ん? なんだよ、ニャン吉。ぼくの悩みを聞いてくれるの?」

『にゃん!』

「ほんと、お前は賢いやつだな。なんで人気が最下位なのか、不思議でしょうがないよ」

『……にゃーん』

「あっ、ごめん、ごめん。悪気はなかったんだよ。じゃあ、言うよ。ぼく、クラスメイトの田中君に悪口を言われてるんだ」

『にゃん?』

「田中君には吉田さんていう好きな女子がいるんだけど、彼女がぼくと仲良くしているのが気に入らないみたいなんだ」

『にゃん!』

「で、他のクラスメイトにあることないこと言って、ぼくの評判を下げてるんだよ」

『にゃーん!』

「いくらそんなことするのはやめてと言っても、ちっとも聞いてくれないんだ」

『にゃーん!』

「だから、吉田さんと仲良くするのをやめたら、もうそんなことしなくなるのかなと思ってるんだけど、ニャン吉はどう思う?」

『にゃーん! にゃん、にゃん、にゃん、にゃーん!』

 オレは全身を使って反対であることを表現した。

「えっ、それって反対ってこと?」

『にゃん!』

「でも、他にいい方法があるかな」

『にゃん! にゃにゃにゃにゃーん!』

「えっ! もしかして、ニャン吉が助けてくれるの?」

『にゃん!』

「ありがとう! どんな方法か知らないけど、きっとニャン吉なら大丈夫だよね」

『にゃーん!』


 翌日の夜、オレは田中に罰を受けさせるため、今まで隠していた【人の夢を操作する】という能力を開放することにした。

 まず田中に夢を見させ、その中に無理やり入り込む。その後はひたすら攻撃するだけだ。

 ちなみに今回、田中はそのままで、オレは教師という設定だ。

 夢の中でまんまと担任になりすましたオレは、田中に向かって説教を始めた。

「おい、田中。お前、あることないこと言って、小川の評判を下げてるらしいな」

「えっ! ……それ、誰から聞いたんですか?」

 田中は分かりやすくオタオタしているけど、もちろんこれくらいでは済まさない。

「誰だっていいだろ。それよりお前、なんでそんなことしたんだ?」

「……小川君が悪いんです。彼が先にぼくの悪口を言ったから、ぼくはその仕返しをしただけなんです」

「嘘をつくな! お前、吉田のことが好きなんだろ? それで、吉田が小川と仲良くしてるのが気に入らなくて、小川に意地悪したんだろ?」

「違います! ぼくは本当に小川君に悪口を言われたんです!」

「ほう。そこまで言うのなら、なんて言われたのか教えてくれよ」

「それは……」

 口ごもる田中を、オレはなおも攻撃した。

「ほら、やっぱり言えないじゃないか。お前なあ、そんなせこいことしていないで、吉田のことが好きなら告白すればいいじゃないか」

「告白って……ぼくたち、まだ小学四年生なんですよ」

「それがどうした? お前、今十歳だろ? 十歳といえば、猫ならもう立派な大人だぞ」

「はあ? なんで、ここで猫が出てくるんですか?」

「……悪い。今のは忘れろ。とにかく、小川のことを悪く言うのはもうやめろ。でないと、お前が吉田のことを好きなことをクラス中に広めるぞ」

「わあ! 何でも言うこと聞きますから、それだけは勘弁してください!」

「はははっ! お前、なに本気にしてるんだよ。そんなの、冗談に決まってるだろ。そんなことしたら、オレはたちまちクビだよ」

「なんだ、先生、驚かさないでくださいよ」

「で、話を元に戻すが、要するにお前は小川に嫉妬してるんだろ?」

「まあ、大きくジャンル分けすれば、そういうことになるかもしれませんね」

「なに、カッコつけてるんだよ。嫉妬するお前の気持ちも分からなくはないが、そんなことしていても、なんの進歩もない。さっき言ったように、思い切って吉田に告白するか、それがどうしても嫌なら、もう彼女のことはあきらめて、勉学に励め」 

「……分かりました。じゃあダメ元で告白してみます」

「おおっ、よく言った。でも、たとえ失敗したとしても、オレを恨んだりするなよ。あと、小川にも八つ当たりするな。もし、そんなことしたら、お前が吉田に振られたことを全校生徒にバラしてやるからな」

 そう言うと、田中は真っ青になってブルブルと震え出したので、オレはもう許してやることにした。

(これで、こいつはもう次郎のことを悪く言うのをやめるだろう。とりあえず一件落着だな)

 オレは夢の中から現実に戻ると、そのまま朝まで爆睡した。

 

 そして、その日の夜。仕事を終えたオレを待ち構えていたかのように、次郎が嬉しそうな顔をしながら駆け寄ってきた。

「ニャン吉、田中君が今までのことは悪かったって、謝ってくれたよ」

『にゃん!』

「けど、その後ニヤニヤしながら、『先生がアドバイスしてくれたおかげで、吉田さんと付き合うことになった』って言ったんだ。先生がそんなことするはずないのに、おかしいだろ? きっと夢でも見たんだろうね」

『……にゃーん』

(なんだと? あいつ、本当に告白したのか? しかも成功してるし……これじゃ、罰を与えたどころか、あいつがおいしい思いをしただけのような……でも、次郎も喜んでるし、結果オーライってことにしよう)

 意外な結果に少し驚いたけど、オレはとりあえず任務を果たせたことにホッとした。ただ、この能力には裏があって、一度使うごとになにか一つ犠牲にしなけらばならない決まりがあるんだ。そして俺が犠牲にしたのは……。

「あらっ? ニャン吉がまだごはん食べてないなんて珍しいわね。どこか体の具合でも悪いのかしら?」

「そんなことないだろ。さっきまで元気に働いてたんだから。まあ、そのうち食べにくるさ」 



 


 


 

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