ある高校生の話。

夜影空

第1話

「よーし、続きから!いきまーす、」

手を、パンッと叩く。役者が、動き出す。

ここは高校の演劇部。俺は演出をしている。夏休みが、終わりに近づいていた。

「先輩、ここって。」

「この時のキャラの心情ってどんなんだと思う?」

「えっと、悲しい?」

「ん、どうして?」

「ここで、こうなってるから…あ。」

「そゆこと。」

演技をずっと見続けるのも大変なのに指導もする…鬼畜だろ。




「お疲れ様でした。」


ああ…もう少しで学校か。


………嫌だな。


少し、時を遡る。


・・・


2年生になり、1回目の定期試験が終わった後から、俺は学校に行かなくなった。5月下旬のことだった。学校に行こうとするとお腹が痛くなり、昼頃まで続く。だから俺は昼まで寝て、起きて、閉じこもって……そんな生活になってしまった。親にも、教師にも心配された。原因は、不明。

「何かあるの?」

と聞かれても、

「分からない」

としか答えることはできなかった。


しばらくしたら、スクールカウンセラーさんと話してみないかと言われた。答えはNO。1年の時に一度話したが、不快感があったためだ。話しても、何も得られなかったと言うのもある。


学校に行かなくなって1ヶ月が過ぎた。土曜日にある部活にも行けてない。学校には行きたい。でも、行けない。この高校を卒業したいし、留年もしたくない。でも、どうしてか、行けない。理由もないのに……。


また1ヶ月が過ぎた。もうそろそろ学校祭が始まる。学校祭の準備期間に入る直前から、急に学校に行けるようになった。授業が嫌だというワケではないみたいだった。でも、相変わらず僕は独りだった。

1年生の頃、俺は友達を作らなかった。中学で仲が良かった友達は皆別の高校に行った。2年生になっても、ずっと独りだ。


学校祭も、1人で周った。演劇の発表があった。裏方の仕事をこなした。


学校祭が終わり、通常授業が始まった。3日だけ行けた。でも、そこからまた学校に行けなくなった。

怖い、怖い、怖い。教室にいると息が苦しくなって、声が出せなくなって……心臓に手を当てると、鼓動が、伝わらなくて……………。いつも通りの俺で居たいだけなのに……僕は、どうすれば良いんだろう……。


僕が学校に行けなくなった理由は、人が怖いからだと、この時に分かった。


人が怖い、その理由は、中学の頃まで時を遡る――



俺は、中学1年の頃から、部活仲間からイジられていた。イジられキャラだったのだ。イジられて、イジられて。どんなにひどいことを言われても、笑って誤魔化して。言いたいことは、全部心に閉じ込めて。部活帰りになってようやく1人になれて、夜の闇の中で泣いて―――。それが、続いた。3年生の、夏まで。2年生の夏頃までに、僕の心は音もなく崩れ去っていたのだろう。3年生では、同じ小学校からの友達がいたから、少し、安定していた。でも、心は崩れたままで……。秋頃からだろうか、気づいたら、左腕を傷つけていた。自分の、右手の、爪で――。


今でも、自傷は続いている。僕の左腕には、沢山の傷跡がある。これは戒めだ。何もできなかった、過去の俺に対しての。



……結局俺は、夏休みに入るまで、学校を休んでしまっていた。


夏休みに入ると、部活に行けるようになった。何も、問題無かった。部活の仲間を、多少は信頼できているのだと実感した。


俺が演劇部になったのは、趣味や興味ではない。僕を、弱い自分を隠したかったからだ。日常的に演技をし、僕を隠し、俺でいること。高1の時は、それで乗り切れたのに……なんで……だろうな……。


夏休み、最後の夜。明日から学校だという日。俺は、自殺のことばかり、考えてしまっていた。大切な親友、家族、そして、部活仲間…迷惑をかけてしまうと分かっているのに。



………この気持ちは誰にも理解出来ない。理解してほしくない。だけど、世の中にはこういう人もいるんだと、知ってもらいたい。だから、小説として書いておこうと思ったんだ。


これは、ある男子高校生の話。フィクションかもしれないし、ノンフィクションかもしれない。だけど、これを読んだ君たちには、考えて欲しいんだ。思って欲しいんだ。こういう人間も、いるんだな、と。



次の日。俺は学校に行った。怖かった。吐きそうだった。


その夜、日付が変わる頃。俺は、この小説を投稿した。

題名は、『ある高校生の話。』

実に興味を示しづらい題名だろう。

でも、これしかなかったんだ。

タグも、あえてつけなかった。


読んでくれて、ありがとう。

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ある高校生の話。 夜影空 @koasyado2

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