ここから。
gonnaru
第1話 ここから。
外に出ると、爽やかな風が吹いていた。
仕事に行く、出勤の途中。
何時もの様に、コンビニで、
珈琲を買って、飲みながら歩く。
駅前のくずかご迄に、飲み終えて、
決まって、そこに捨てる、
ルーティーン。
駅ですれ違う人たちも、大体同じ顔。
でも、今日違うのは、何時もは、
目も合わせわせたことの無い、
君と、目があったことくらい。
何と無く、気まずくなって、
目を反らす。僕の気になる女性。
声を掛けたら、気持ち悪いかな。
変な人と思われちゃうかな。
そう思うと、一歩が踏み出せない。
そんな関係も、新入社員として、
この電車に乗ってから、
3ヶ月続いている。
明日こそ、明日はと、過ぎていく日々。
偶然、電車が揺れて、よろけた彼女が、
僕の袖に掴まって。
「すみません」と小さな声で、
言ったのが、初めて聞いた君の声。
僕は、「大丈夫?」と返したのが、
初めての会話。
「はい。」とまた、小さな声。
目的の駅で降りてから、電車を、
見送る。
次の日も、同じ、ルーティーン。
僕が乗るのは、同じ車両。
彼女も、何故か同じ車両。
毎日、同じ車両で、彼女と会って、
特に会話もすることはない。
同じ駅で降りて、車両を見送る。
何時もと違うのは、窓から、
あなたが、僕を見ていた事。
そのつぎの日も、同じ車両。
何時もの駅で、彼女が乗ってくる。
今日も、会話も何もない。
でも、今日は土曜日。
初めて乗る、休みの日の電車。
休みの日と言うこともあって、
席に座れる。
彼女もちょこんと、僕の横に座る。
でも、会話も何もない。
声を掛けたら、
彼女に会えなくなるのが怖くて。
そこから、動けなくなる。
でも、こんなもやもやを、
終わりにしたくて。。。
「土曜日も、仕事ですか?」
と声を掛けた。。。
「違います。」と小さな声。
「良く会いますね」
と声を掛けた。
「今日で、この電車に乗るの、
最後なんです。」
その言葉に、胸が苦しくなって。。。
「何か、あったんですか?」
と、踏み込んで聞いてしまった。
「入院しないといけなくて。」
「そうだったんですね。すみません。
踏み込んで聞いてしまって。」
彼女は少しうつ向いて。。。
「いいえ。大丈夫です。
電車で会えないのを、
貴方に報告できたから。」
そう言った。
「僕に?」
「はい。」
「あの、変な事言っていいですか?」
「はい。」
「入院先に、御見舞いに行っても、
良いですか?」
「どうしてですか?」
「御見舞いに行けば、何時でも、
あなたに、会えるから。」
「私に?」
「はい。。。あなたのいない電車は、
落ち着かないから。」
「ふふっ。そうですか。私もです。
電車で、あなたに、会えないのは、
落ち着きませんね。」
「これから、病院ですか?」
「こんな早くから、やってる病院は、
ありませんよ。」
「じゃあ、何で、この時間の電車に?」
「それは、さっき言いました。」
「僕が、いないと、
落ち着かないからですか?」
「2度も言いたくありません。」
「これからの予定は?」
「特にありません。初めて土曜日の、
電車に乗りました。でも。。。
土曜日なので、貴方は、いないと、
思ってました。今日も仕事ですか?」
「いえ。僕も、初めて、土曜の、
この時間に、乗りました。
あなたに、何と無く会える気がして。」
「気が合いますね、私もです。」
「これから、一緒に、朝食に、
行きませんか?」
「そうですね。入院したら、
暫くは、行けそうもないので、
御一緒させて下さい。」
「喜んで。」
いつからか、一緒の電車に揺られる、
そんな関係。
その関係が、僕たちを繋いで、
ここからは、
今度は、会社だけじゃなくて、
彼女の元に、電車で、
通う毎日が続きそうだ。。。
ここから。 gonnaru @gonnaru
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