夜明けを待つ灯台

胡蝶蘭

2023.3.10 AM05:00

 朝日が海を照らし波は静かに音を立てて波打つ中、真優は砂浜に立ち海をぼーっと見つめていた。冷たい風が頬をかすめる度に真優は鼻をすすり目を閉じた。


「隼人。私は今もあなたが帰ってくるって信じているから。」


目に涙を溜めた真優は強く手を握った。

 朝の散歩をする老夫婦と犬とジョギングする若者があいさつを交わす中、真優のいる空間だけが時間が止まっている様だった。

明日になれば砂浜は人が集まり花が手向けられる。そうなれば真優はきっと立っていられなくなる。受け入れなければいけなくなる。だから毎年この日、この時間にひとりで砂浜に来るのだ。

 数年前に友人に言われた言葉を真優は思い出した。


”真優、もう前に進んでいいんだよ?隼人もきっとそれを望んでいると思うよ。”


 そう言われた日から真優は更に意固地になっていった。

真優自身も自覚しているからこそ友人とも距離をとった。

それでもなお真優は待つことを選んだのだ。そう約束したのだ。

真優は最後に交わした言葉を思い出す。

頬を伝う涙を強く拭った真優は深呼吸をし、振り返ると所々にあの日を残しながらも変わろうとしている町が目に入る。

町に向かって歩き出すと錆びれてガラスの割れた建物の前に立つ時計が真優の視界に入る。その時計の秒針は5時26分を指していた。



 

東日本震災から12年が経とうとする今も真優にはずっと待っている人がいる。

帰ってくると約束した人がいる。

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夜明けを待つ灯台 胡蝶蘭 @kochou0ran

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