第14話
結城は夜の街を歩いていた。彼の心には怒りと無力感が渦巻いていた。信じていた友人に裏切られ、大切なものを奪われた今、彼には何も残っていなかった。復讐の念に燃える結城は、何としてでも失ったものを取り戻す力が欲しかった。
そんな彼の前に、一人の謎めいた男が現れる。薄暗い路地裏で、その男は結城に声をかけた。「君が求めている力を与えることができる」と。その男は自身を「黒井」と名乗り、かつては伝説的な黒魔術師の弟子だったと語った。
「君のような強い意志を持つ者だけが、真の力を手にする資格がある。だが、その力には代償が伴う。覚悟はできているか?」
結城は迷わず頷いた。彼にはもう、失うものは何もなかった。黒井に導かれ、結城は地下の古びた書庫に足を踏み入れる。その場所には、古代の文献や呪術の書物が所狭しと並んでいた。黒井はその中から一冊の黒い表紙の書を取り出し、結城に手渡した。
「これは『影の書』。この中には、闇の力を操る秘術が記されている。しかし、読むだけでは意味がない。実際にその力を使い、体で覚えなければならない」
結城は、毎晩遅くまでその書を読み、黒井の指導のもとで儀式を行った。暗闇の中で呪文を唱えると、影が揺らめき、生き物のように動き出す。最初は小さな影の操作から始まったが、次第に結城の力は強まり、他者の影を操り、彼らの行動を支配することさえできるようになった。
しかし、力を得るたびに、結城の身体と精神には異変が生じ始めた。鏡を見ると、目の奥に深い闇が宿り、かつての自分とは異なる存在へと変わりつつあることを感じた。しかし、結城はその変化を恐れることなく、むしろそれを歓迎した。彼はこの力を使って、必ずや自分を裏切った者たちに復讐するつもりだった。
結城の黒魔術の力は、やがて周囲の人々に恐怖を与えるようになった。彼の存在が近づくと、影が不気味に蠢き、人々は得体の知れない不安に襲われた。彼はその力で、裏切った友人たちを一人ずつ追い詰め、彼らの心に恐怖を植え付けていった。
しかし、その力を使うたびに、結城は自分自身が何か大切なものを失っていることに気づき始めた。かつての人間らしい感情や共感が次第に薄れていき、彼の心は冷たく、空虚になっていった。
ある日、黒井は結城に警告を発した。「力には限界があり、使いすぎると君自身がその力に呑まれてしまう。いくら復讐のためとはいえ、君が選んだ道は危険すぎる」
だが、結城はその警告を聞き流し、さらに力を求め続けた。そして、最終的には黒井との師弟関係さえも崩れ、彼は自分一人で禁断の儀式を行うことを決意した。
結城は復讐を果たすため、最後の標的である元友人の屋敷へと向かった。彼の力はすでに頂点に達しており、屋敷の影は結城の意のままに操られていた。屋敷内の護衛たちは、次々と影に飲み込まれ、悲鳴も上げる間もなく消えていった。
ついに、結城は元友人と対峙した。彼の姿を見た友人は、恐怖に震えながら命乞いをしたが、結城の心は既に闇に支配されていた。彼は冷酷な微笑を浮かべながら、友人にとどめを刺すため、最後の呪文を唱えた。
その瞬間、結城の心にある一抹の躊躇が生じた。自分がここまで追い求めてきた力とは一体何だったのか?復讐の果てに何が残るのか?彼の頭の中で黒井の警告が響き渡る。
しかし、呪文は既に放たれ、友人は闇の中に消え去った。結城はその場に立ち尽くし、やがて膝をついた。彼の周りの影が彼自身を包み込み、まるで彼の魂を飲み込むかのように暗闇が広がっていった。
ESCAPE④ 羽越連続殺人事件 鷹山トシキ @1982
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