第15話

・あれから数時間が経った空が少しずつ明るくなっていく。ジャックはハクビシン以外獲物を見ていない。仕留めれば良かったと後悔をしながら荷物をまとめる。

〈ジャック〉あぁ、明るくなり始めたな。

あいつ仕留めておけば良かった。

そろそろ帰ろう。

・ジャックは荷物をまとめ終わると慎重に木から降りる。

〈ジャック〉この木も降りにくくなったな。

今度は明るい時に来て要らない枝を切らないとな。

・ジャックはリュックとライフルを背負い片手にランタン、奇襲に備えて手斧を持ち、帰る支度をする。下に降り狩場を離れようとしたその時、目の前の草むらが激しく揺れ大きな雄鹿が何かから逃げるように飛び出してくる。ジャックは突進してくる雄鹿を間一髪で避けると、雄鹿はそのまま森の中へ消えていった。。

〈ジャック〉ふぅ、驚いた。久々にあんな大物を見た。まだこの森にも居るんだな。

・ジャックは呆気に取られていたが雄鹿が出て来た方向から強い殺気を放つ何かが近づいてくるのを感じ、ジャックは咄嗟に臨戦態勢に入る。

〈ジャック〉何が来るんだ。熊か?魔物か?

いや熊にしては殺気が大きすぎる。

・ジャックは背負っていたリュックを遠くへ投げ、ライフルをいつでも使えるようにする。

・次第に周りの木々が揺れ始め足跡が振動と共に近づいてくる。そして先程よりも大きく草むらが揺れその「何か」が姿を現す。

草むらから現れたのは、体長が3メートルを裕に越す鬼闇狼(オーガウルフ)だった。

“鬼闇狼”とは主に大陸の南側の地域に生息している大型の魔物の狼種である。この森にも狼の魔物は生息しているがまた別の種類だ。野生個体は一頭の雌をリーダーに沢山の雄を引き連れて狩りをする。名前の由来は夜行性で周りの物陰に隠れながら獲物の隙をつく習性があるためである。

また鬼が付いているのは群れの上位個体のみ眉間に2つツノが並んでいるからである。

一般にツノの無い個体は闇狼(ダークウルフ)

と呼ばれている。

〈ジャック〉なぜこの森に鬼闇狼が...

《何か付いている鎖か?魔族の使役個体のようだな》

・鬼闇狼はジャックを睨み威嚇をしているが様子がおかしい。首元や足首に拘束具が付いていて野生個体では無い事が分かる。

身体の所々に傷があり古傷というよりこの二、三日で出来た傷のように見える。

しかし分かったところで危険な状態に変わりない。

〈ジャック〉久々だなこの感覚...

手負の動物ならまだしも魔物か。

体が訛って無ければ良いが。

〈鬼闇狼〉グルル...グッガァァァァァ

・先に動き出したのはオーガウルフだった。

オーガウルフは予備動作も無くジャックに飛び掛かる。ジャックは素早く横に回避し、オーガウルフの横腹に手斧を押し込み無理やり切る。

〈ジャック〉やはり傷は入らないか。

なら既にある傷を抉ぐるのみ。

・ジャックは弾かれた手斧をその場に置くと腰から剥ぎ取り用のナイフを取り出しオーガウルフの攻撃をかわしながら血の滲む傷口を切り付けていく。

〈ジャック〉よし、この闘い方なら効いてそうだな。

〈鬼闇狼〉グッ..グルルル

・オーガウルフがジャックに突進したかと思うと急旋回しオーガウルフの首元に掛かる鎖が

ジャックの横腹に直撃する。

〈ジャック〉ガハッ..痛えハァ、ハァ

そう来ないとな。俺の負けだ。

・ジャックは鎖の衝撃で近くの木に吹き飛ばされる。ジャックは意識の飛びそうになる攻撃を耐えながらオーガウルフを睨む。

オーガウルフはトドメを刺すためにゆっくり近づくが急に頭を上げ周囲に首を振ると、ジャックに背を向けておぼつかない脚で森の中に消えていく。

ジャックは横腹を抑えてゆっくりと立ち上がり

リュックを拾い持ってきた軟膏を塗り包帯を巻く。

〈ジャック〉アイツ何に呼ばれたんだ?

何にしろ生かしてもらって悪いが、

野放しにすると村に被害が増えそうだからな。

・ジャックはリュックとライフルを背負うと

ランタンをぶら下げナイフを腰にしまう。

片手に手斧持ち、横腹をさすりながらオーガウルフの残していった血痕を頼りに後を追う。


・空には日が上り朝を迎えて居た。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

終焉ノ残火 信楽 @AJDr

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ