第15話 【また、会えるよね】

 彼女はあたしに気が付くと、

「なんだか、悪い夢から覚めた気分だわ……」

 と、つぶやいた。

 周りを見渡すと、ジャングルジムやブランコが見える。

 よかった。異空間から公園に戻ったみたい。

 ソラはバーバラと少し話した後、人型にもどったイロハに、「彼女を介抱してやってくれ」と頼んだ。

「え? 拘束しなくても大丈夫なんすか?」

「あぁ。今の彼女に、そんな必要はない」

 イロハは、「マジっすか……」と、少しおどおどしながらバーバラに肩を貸して、ベンチに座らせた。

「ねぇ、バーバラはどうなっちゃうの?」

「自首するそうだ。救護部隊が地球に到着しだい、彼女と共にカラフルへ戻って事情聴取を行う」

「そっか、帰っちゃうんだね……あ、そうだ。バーバラが言ってた人柱ってなんだったの?」

 ソラはあたしに説明してくれた。

 人柱とは数万人に一人の確率で特殊な力が宿る人間のことで、その人柱が住む町のあらゆる出来事に影響するんだって。

「人柱の力を奪えば、この虹色町の住人すべてを無気力にすることが出来る。つまり、お前はこの町にとって、太陽みたいな存在なのさ」

 太陽……かぁ。

 まぁ、太陽がなくなっちゃったら、みんな凍ちゃうもんね。でも、あたしなんかが太陽だなんて、なんだか恥ずかしいな……。

「けどさっ、一つ疑問があるの。なんであたしにそんな不思議な力が宿っちゃったの?」

「人柱の力は、その地域を治める『神さま』と呼ばれる存在から与えられると聞くが……なにか心当たりはないのか?」

「う~ん……あたしは元々東京に住んでたし、神さまなんて縁もゆかりもない……あ」

 そういえば、虹色町に引っ越して来たばかりのとき、不思議な体験をしたことがあったなぁ。

 町を探索していて迷子になったとき、白猫さんに猫乃手神社まで道案内された後、あたしはお礼を言って白猫さんの頭をなでたんだ。

 そのあと、白猫さんの姿がふっ……と消えちゃった。 

 あのときは目のさっかくだと思って誰にも言ってなかったけど……。

 あたしはソラにそう説明した。

「……おそらく、その白猫が虹色町の神さまだ。あの神社は大火事を予言した猫を御神体として奉っていると聞いたからな」

「じゃあ、白猫さんの頭をなでたときに、あたしは力を授かったってこと?」

「そう考えるのが最も信憑性が高い」

 そっか、あの白猫さんは神さまだったんだ。びっくりだけど、なんだかロマンチックだな。

「ねぇソラ、少しだけ小鳥遊さん……バーバラと話していい?」

 あたしはイロハと並んでベンチに座るバーバラの元へ向かった。

「大丈夫? 怪我はない?」

「ええ、私は大丈夫。あなたは?」

「あたしは見ての通り全然元気だよ!」

「そう、良かった」

「あのさ……あたし、バーバラに変身したあなたのこと、すっごく嫌な奴だと思った。でもね、それは本当のあなたじゃなかった。だから、あたし今はそんなこと思わないよ」  

 バーバラは恥ずかしそうに少しうつむいた。

「ねぇ、星野さん」

「真白でいいよ! なに? バーバラ」 

「罪をつぐなったら、ま……真白と、友達になりたい」

「あははは! なに言ってるの、それはさっき言ってくれたじゃん!」

「……え?」

「あたしたち、もう友達だよっ!」

 上を向いたバーバラは、満面の笑顔で「うん!」とこたえてくれた。



 夏休み目前のアーチェリークラブ。

 今日は全国大会の選手選考会が開かれる大切な日! そして、ソラとイロハがカラフルへ帰っちゃう日。

 だからね、木葉といっしょにソラとイロハも応援にきてくれたんだ。

「真白、ファイトだよ! いつも通りやれば大丈夫だからね!」

「うん! ありがとう、木葉」 

「真白ちゃん、努力は必ずむくわれるっす! あーしもカラフルに戻ったら頑張るっすよ!」

「ありがとうイロハ、正隊員になれるといいね!」

「真白、ベストを尽くせ」

「うん! ありがとう、ソラ!」

 みんなから励ましを受けて、選考会が始まった。

 いつもなら緊張でガチガチなんだけど、今日はとってもリラックス出来てる感じ。

 両足を的の中心と一直線になるように立って、あたしは両肩の力をぬいた。

 矢つがえをして、的に顔を向けて、めいっぱいの力で弦を後方へ引く。

 いつもはここで、

『絶対勝つ!』

 とか、

『十点取る!』

 とか、

『でもはずしたら、どうしよう……』

 とか、雑念が邪魔をしてくるんだ。

 でもね、今日はいつもと違う。的の中心だけがよく見えるんだ。

 木葉を、そしてバーバラを救いたいと思ったあのとき、心の中が雲一つない青空のように澄みきった。

 これが集中――

 集中力って、誰かのことだけを考えればいいんだ。

 今は、この力を教えてくれたソラだけのことを考えて――


 シュタン!


 放った矢は的のド真ん中に命中した。

 その後、選考会は無事に終わり、あたしは全国大会のメンバーに選ばれた。



 夕方、セミさんたちの鳴き声も落ち着いてきた猫乃手神社境内。

「いっ~ぱい食べて、大きくなるんすよ~」

 イロハは猫さんたちにごはんをあげながら声を掛ける。

 カラフルへ帰る前に、境内の保護猫さんたちにごはんをあげたいと、ソラとイロハにリクエストされたんだ。 

「世話になった、すこやかに育ってくれ」

 優しい言葉を猫さんたちにかけながら、ごはんをあげるソラの横顔は、夕やけのオレンジが映えて、めっちゃ綺麗。やっぱカッコいいなぁ……。

 おっと、思わずみとれちゃった。

 猫さんたちにごはんを配りおわったソラとイロハは、カラフルウォッチの画面にタッチして、シェリフるの白い制服姿に変身した。

「そろそろ時間だ」

「あ……うん。バーバラはもう宇宙船に?」

「あぁ、先に乗ってもらったよ。そういえば、彼女から真白に渡してほしいと預かったモノがあったな……」

 ソラはポケットから取り出したモノをあたしに手渡してくれた。

「これ……マスキングテープ」 

「友達の『証し』だそうだ」

 嬉しい。

 これは今、彼女ができる最大限の贈り物なんだ。

「うん、ありがとう。大切にするって伝えといて」

「よし、じゃあイロハ、行こうか」

「……いやっす。帰りたくないっす。あーしだけ残るっす」

 イロハは下くちびるを噛んで、うつむき気味で目に涙をためている。

「イロハ、どうしたの?」

「真白ちゃんと離れたくないっす……もっと猫さんたちとも遊びたいっす。だから……だから帰り……うえ~ん!」

「ちょ、イロハ泣かないで、またすぐ会えるから」

 あたしはギャン泣きするイロハの頭をなでなでしてあげた。

 もぉ、あたしだって必死に涙こらえてるのになぁ。

 しばらくして泣き止んだイロハは、猫さんに囲まれてお別れのあいさつをしていた。

「真白、世話になったな」

「ううん、ソラのおかげで選手にも選ばれたし。それに、あたしには使命が出来たからね!」

「そうだな、お前は虹色町の人柱だ。これから辛いこともあるだろう……しかし、やまない雨はない。笑顔を忘れるな」

「うん! いつも心に太陽を! だねっ!」

 ソラとイロハは猫乃手神社の階段を降りていった。

 近くの山の中に、救護部隊が乗った宇宙船が停まっているんだって。

 あたしは、その背中が見えなくなるまで見送った。

 日が暮れて、夜空には満天の星空がかがやいてる。

 あのお星さまのどれかに、カラフルがあるのかな?

 きっと、また会えるよね。

 宇宙人に恋する乙女ってのも悪くないかも。

 あはっ!


   END

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