第14話 【あなたを救いたい】
小鳥遊さんが前髪をカチューシャでとめると、身体から炭のような黒い霧がたくさん出てきた。
彼女は漆黒のマント姿に変身した。
「私の名はバーバラ。ダーカンさまから『人柱狩り』を命じられたクロコよ。星野真白、アンタの力、頂くわ」
「力かなにか知らないけどさ……そんなことのために、みんなを利用したの?」
「ええ、そうよ。西園寺のスポドリにすこ~し、ネガパウダーを混ぜて洗脳して~、坂本と南雲にネガアイテムを仕込んだのぉ。陸上部のマネージャーはなにかと便利だったわぁ、キャハ!」
なに、この態度?
バカにしたように笑うバーバラに、あたしは腹が立った。
ソラがあたしの肩をポンっとたたいた。
「真白、落ち着け」
「……ソラ」
「現状、ポジ弾のストックがない上に、イロハもいない。クロコを倒すにはお前の力が必要だ」
そう言うと、ソラは頭を下げた。
え? プライドの高いソラがあたしに?
「頼む……お前の力を貸してくれ」
「はははっ、水くさいよ、ソラ。あたし、一応シェリフるの隊員でしょ?」
「そうだな……恩にきる」
「よし! そうと決まれば……」
あたしとソラは、いっしょにカラフルウォッチをさわって、シェリフるの制服姿に変身した。
「真白、ネガモンスターと同じく、クロコもお前のレア・ポジティバーで倒せるはずだ。俺がアイツを引きつけている間に奴を狙い打て」
「うんっ! 任せて!」
あたしの言葉に反応するように、カラフルウォッチの画面が光った。
画面を触ると、光の粒の中から銀色のアーチェリーが現れた。
手にとると、バーバラは不気味な笑みを浮かべた。
「キャハ! それそれ! それがあれば、私はダーカンさまからごほうびがもらえるの! だからね……」
彼女がポーチのマスキングテープを宙に放り投げると、それは車のタイヤみたいに黒く、そして大きくなった。
「ソレ、私にちょうだい!」
ギュン!
宙に浮いた黒いマスキングテープが、こっちに向かって一直線にのびてくる。
えっ! いきなり?
「うわぁ!」
あたしはびっくりして、とっさに目をつむった。
――シュバ!
その直後、前髪が揺れるくらいの風を感じた。
おそるおそる目を開けると、マスキングテープは切り刻まれていた。
「どうやら、ネガアイテムは武器としても使えるようだな」
あたしの周りをぐるりと囲むように、ソラのカードが宙に浮かんでいた。
「そっかぁ、アンタの能力も念動力だったわねぇ……キャハ!」
バーバラは宙に浮くマスキングテープを操って、土星の輪っかみたいに自分の周りをぐるりと囲んだ。
「――じゃあさ、サイキッカー同士、楽しんじゃおっか! キャハ!」
ギュイーン!
マスキングテープは回転したかと思うと、目で追うことができないくらいに、どんどんスピードアップしていく。
ギュルルル! シュバ!
高速回転するマスキングテープの中からテープが伸びてきた。
ズバズバッ!
ソラの操るカードがテープを切りさく。
でも、次から次へとテープは伸びてくる。
カードとテープの攻防戦の最中、あたしは銀色のアーチェリーをバーバラに向けてかまえた。
ソラが引きつけている今がチャンス――
意識を右手に集中させると、光の矢が現れた。
あたしは銀色のアーチェリーに光の矢をセット、弦を引き、バーバラに狙いをつけた。
でも――
高速回転するマスキングテープが盾みたいになって狙いが定まらない。
狙える箇所は頭か足――
どっちを狙えば当たる可能性が高い?
闇雲に矢を放ってもダメ。確実に当たる方を狙わなきゃ。
「……くっ!」
マスキングテープの攻撃がよりいっそう激しくなってきた。
このままじゃソラのカードがもたないよ。
はやく射たなきゃ……。
あたしはバーバラの足を狙って光の矢を放った。
――ドシュン!
「あっ――!」
光の矢はバーバラの足元をかすめて後方へそれてしまった。
外し……ちゃった。
「真白、落ち着け。ネガモンスターを倒した時の集中力を思い出すんだ」
「……うん、わかってる。わかってるんだけど」
ダメだ。
マスキングテープが気になっちゃって、あの時みたいにうまく集中出来ない。
「戦いの最中によそ見しちゃってぇ……余裕ぶっこいてんじゃねーよ!」
「ソラ、危ない!」
あたしの方を向いていたソラの身体に、マスキングテープが巻き付いた。
「ぐむっ!」
ソラが身動きが取れなくなったと同時に、宙に浮いていた残りのカードが地面に落ちた。
「なになに? 集中力途切れて、念動力使えなくなっちゃった? つか、アンタさぁ~、みのむしみたいじゃ~ん。キャハ! ウケる! キャハハハハハ!」
バーバラはマスキングテープの高速回転をとめて、ソラをしばりあげた。
助けなきゃ……待ってて。
今、光の矢を――
「あれ……出ない、なんで?」
緊張してるから? あせってるから? 光の矢が出ないよ!
「さぁて、次はアンタの番よ!」
シュバ!
マスキングテープがこっちに向かって伸びてきた。
「――わっ!」
動けない――?
まるでヘビが獲物に巻き付くみたいに、テープがあたしの下半身に絡みつく。
バランスをくずして転んだあたしは必死にもがいた。
「つ~かまえーたぁ。あとはアンタの力を頂いて、お・わ・り……キャハ!」
バーバラが銀色のアーチェリーをつかんだその瞬間、あたしの頭の中に『声』が響いた――
【さみしい】
【苦しい】
【こんなことしたくない】
【友達がほしい】
……これは、バーバラの声?
バチッ!
「痛っ! なんなのよ、コレ!」
銀色のアーチェリーが静電気を発して、彼女は手を離した。
「……ねぇ、あなたもしかしてさ、こんなことしたくないんじゃない?」
あたしがそう言うと、バーバラの目付きがさらにこわくなった。
「はぁ~? アンタ、なに言ってんのよ。私はダーカンさまの忠実なしもべ。人柱から力をうばうことが私の使命よ!」
「本当はさ、友達……ほしいんじゃない?」
「……黙れ。黙れ黙れ黙れぇ! 友達? ふざけたこと言ってんじゃねーよ、バーカ!」
バーバラは激怒しながらマスキングテープを操り始めた。
「いいわ、直接うばえないのなら……アンタもあのシェリフるみたいに『みのむし』にして、ネガアイテムで力を吸いとってやるわ。キャハハハ! 星野真白、空っぽになっちゃえ!」
絶体絶命――
そう思った瞬間、あたしの目の前の空間が渦巻き始めた。
え? なにコレ?
それはまるで小さな台風の目みたいにグルグルと渦巻いている。
――ズボッ!
「みゃおー!」
「ええっ? ミャオ?」
渦巻きの中からミャオ……ううん、猫モードのイロハが飛び出してきた!
「ぐぶっ!」
「みゃぶっ!」
バーバラの顔にぶつかったイロハは、そのまましがみついて、彼女の顔におおいかぶさった。
「ちょっ! なによ、コイツ! どこから出てきたのよ! はなせ!」
「みゃみゃみゃ……げふんっ! あーしの能力は『空間移動』っす! 異空間に突入することなんて、お茶の子さいさいっす!」
「いいタイミングだ、イロハ」
ソラのカードが再び宙に浮きあがり、あたしとソラに巻き付いていたマスキングテープをたち切った。
「真白! 今がチャンスだ!」
「う、うんっ!」
右手に光の矢を出し、銀色のアーチェリーにセットした。
さっき聞こえた声が、バーバラの心の声だったとしたら、ダーカンってヤツにネガパウダーで洗脳されてるってことかも。
それなら、あたしは彼女を……バーバラを救いたい!
そう思った瞬間、彼女の身体の中心に黒いモヤモヤが見えた。
あれ……ものすごく集中できてる。
あたしはバーバラの身体の中心に狙いを定めた。すると、銀色のアーチェリーが金色へ変化した。
「オーバー・ザ・レインボーショット!」
放った矢は、闇を切り裂いてバーバラの身体の中心に命中した。
「キャアアアアアア!」
悲鳴と共に黒いモヤモヤは消え失せ、彼女の身体の中から虹色の光があふれ出してきた。
そして、両ひざから崩れるようにその場へ倒れた。
「バーバラ!」
あたしは彼女にかけよった。
「……ん、んん」
しばらくして目をさました彼女の瞳は、赤色からとても澄んだ黄金色の瞳に変わっていた。
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