第2話
「英雄を…ころす?」
国王の言葉を聞いたがユウキには意味がわからない。
「魔王は確かに数年前には存在していた」
国王は続ける。
「だがそれは隣国、エテールナ王国が召喚した異世界人、勇者レオンによって討たれたのだ」
「じゃ、じゃあこの世界は平和になったんじゃ…」
「あぁ、確かに人類共通の敵がいなくなったことにより一時的に平和は訪れた。だが!」
国王の声に熱が入る。
「元魔王領の所有権争い、国同士の経済格差、国内の分裂による内戦。魔王という存在は人類にとっての脅威であると同時に人類同士の団結力を高めていた!」
魔王討伐を機にエテールナ王国はどんどん勢力を伸ばしていき、世界の4割近くを掌握しており、近い内に元魔王領もエテールナ王国の手中に収まる可能性が高い。
もともとはガリア王国、エテールナ王国を含む4列強を中心として魔王勢力と対抗していたのだが、近年はエテールナ王国が世界の中心になってしまった。
そして、エテールナ王国は支配下に入らない国に侵攻をする準備をしているとの連絡を受け、急遽ユウキを召喚したとのことだった。
「……つまり、ガリア王国はこのままだとエテールナ王国と戦争になる。ということですか?」
「うむ。エテールナ王国は強大だ。勇者に加えて魔王軍との戦いで戦果をあげた英雄たちもわんさかいる。さらには、周辺の小国はエテールナ王国の支配下に加わり始め勢力はさらに伸びている」
「なら、ガリア王国も支配下に入ればいいんじゃ?」
「……エテールナ王国の国王、ディオール。奴は人間としては最低だが、頭は切れる。勇者含め英雄と呼ばれる者共の大半は異世界人だ。一体何人の国民を生贄に出したのか…………奴は何でもする。自分のためならな。
あんな奴にこの国を預けることはできん」
「…………」
沈黙するユウキに国王は向き直し、
「異世界人のそなたにこんなことをさせるのは申し訳ない。だが、金も地位も困らせることはない。
すまないが、」
「おい、シャルル。連れてきたからあとは頼むぞ」
連れられた先はこじんまりとした部屋だった。
規則的に机が並べられた部屋は閑散としており、シャルル以外に人影は見えなかった。
彼女は白髪のロングヘアー、そしてその鋭い目つきからは冷徹なニンゲンという印象をうける。
「……」
シャルルから向けられる視線は親の仇に対するものかのようだった。その殺気に思わず下を向く。
案内してくれた騎士によるとこの国での仕事は彼女とともにしていくことになるという。
「俺、召喚の話聞いたよ」
シャルルの視線は変わらない。
「君の先輩みたいにはなれないかもしれないけど、俺はその先輩の分まで頑張りたいと思う。だから、」
顔をあげ彼女の目をしっかりと見る。
「一緒に先輩の命、背負ってくれないか?」
「っ!………」
しばしの沈黙。
「アンタが悪いとは思ってない。先輩は自分から命を差し出したんだ。それでアンタを恨むのは筋違いも甚だしい」
だけど、
「あの儀式の間でのアンタを見たら怒りが込み上げてきてしょうがなかった。……悪かったよ」
彼女はバツが悪そうに下を向きながら謝る。
「じゃあ、」
手を差し出す。
彼女は眼前の男の顔を見つめる。
「よろしく。私はシャルル・スミス」
差し出されたその手を強く握り返す。
「俺は
シャルルは微笑みながら言う。
「ようこそ、ガリア諜報特務庁へ」
英雄殺し 夏矢野 玲音 @777imo
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