英雄殺し

夏矢野 玲音

第1話

「ぬぁぁー、気持ちわりぃーー!」


 友人たちと居酒屋をハシゴにハシゴしまくった男、宿直 結城(とのい ゆうき)はベロンベロンによっていたため、平衡感覚を失い、あちこちに体をぶつけながら帰路についていた。ユウキの見た目は金髪でいかにもイケてる大学生という風貌。

 が、実際は大学デビューに失敗した陰キャであり、高校時代からの友人とヤケ酒をしてきたのであった。


「あれ、ここどこ?」

 

 気がついたときには見知らぬ場所にいた。そこは石造りの祭壇のような場所だった。


「異世界人のっ、召喚に…成功しました!!」


 泣いているような女の人の声が部屋に響く。

 すると、ユウキの下に紫の模様が現れた。瞬間、魔法陣から黒い鎖が何本も突き出した。

 

「なにーこれ?なにこれ」


 それらの鎖は自らの意思を持っているかのようにユウキに絡みつくと、それらは体に吸い込まれるようにして消滅した。


「服従魔法にも成功、作戦は成功です!」


 次は男の低い声が響く。

 その言葉を待っていたかのように重厚な扉がゆっくりと開かれ、その隙間から光が部屋に差し込む。

 開け放たれた扉の先にはいかにも王様です。といった雰囲気の老人と、その護衛のような騎士たちがいた。


 突っ立っているユウキに対して老人が命令する。


「余にひれ伏せ」


 その言葉を聞いた瞬間、片膝をつくようにして跪く。

 (なんだ、体が勝手に…)

 この恐怖体験でほぼ酔いがさめてしまった。


「ふむ、素晴らしい」


 その様子をみた老人は満足気にうなずき、

 

「異世界の者よ、名を何と申す」


「は!わたくしは宿直 結城とのい ゆうきといいます」


 言葉を考えることなく発せられる。体が言う事を聞かない。


「ユウキか。我々にはそなたにやってもらわなければならないことがあるゆえ、服従魔法をかけさせてもらった」


 その後、老人、もとい国王による説明を受けた。

 いわく、ここはガリア王国という異世界の地であること。現在、ガリア王国は危機的状況に陥っておりそれを打破するべく俺を召喚したということ。

 服従魔法をかけたのは、異世界から召喚した人間は世界をわたる際に莫大な魔力を得ることができるため、反乱を起こされないようにするためとのことだった。

 

 (異世界召喚かぁ、……いざ自分の身におこるとなるとワクワクとかしないなぁ…服従魔法かけられちゃってるし、魔王とか倒さないといけないでしょ?…友達とかにももう会えないし…何より……)


「ここまでで聞きたいことはあるか?」


 国王にそう言われて体の主導権が自分に移り、口を動かせるようになる。


「異世界召喚されたってのはわかったんすけど……酒ってこの世界あるんすか?」


「………う、うむ、あるぞ」


 想定外の質問に驚いたのか国王はしばしの沈黙のあとに返答をする。


「あぁ、よかったー!酒さえありゃギリセーフっすね」


 あっけらかんとするユウキだったが、


「ふざけるな!!お前のせいで先輩は…先輩は!!!」


 突如怒号が飛んできた。

 目をやると騎士複数人に抑えられる女性の姿があった。


「離せ!私はアイツに一発食らわせないとこの怒りは収まらない!!」


「まて待て!シャルル!気持ちはわかるが陛下の御前だぞ!静まれ!」


 それでも騒ぐ女性は騎士たちによって部屋の外へと連れられていった。


「…すまないな。少し部屋を移動しながら話そうか」


 


「あの子なんであんなに怒ってたんすか?」


 宮殿の中を歩きながら国王に問う。


「それはだな、そなたの召喚に理由がある。」


「召喚にですか…」


「あぁ、この異世界召喚には生贄を捧げる必要があるのだ。

召喚をする際に生贄にした人物、人数、それらが召喚の質を高める。

彼女、シャルルの上司であるフィリップはそれは有能な人間だった。

だが’、この国の機器を救うためならとこの召喚に自ら志願した一人だった。」


「………」


 彼女は怒って当然だった。自らの尊敬する上司と引き換えにあんな能天気な質問、態度……

 

「……」


 その後は一切の会話もなく部屋についた。

 部屋には2〜3mほどの大きな水晶があり、螺旋状の金属がそれを取り囲むように浮かんでいる。


 その部屋にいた女性が水晶に手をかざすようにうながす。

 手をかざす。


 触れられた箇所から紫色に変色してゆき、それは頂上に向けて広がってゆく。

 頂上に達したそれはそこから金属部分から吸い上げられ、下の針の部分に向けて伝っていく。

 

「ユウキが責任に感じる必要はない。フィリップも、モリスもザックも、皆この国のために命を自ら志願しただけだ。」

 

 水晶を眺めていたユウキに国王は語りかける


「だがこれだけは覚えておいて欲しい。3人の若き青年たちは君を呼ぶためだけに命をかけた。君はその上にたっている。それだけを覚えておいてほしい」


 言い終わると同時に水晶の装置によって作られたユウキの能力を可視化したステータスカードが手渡される。


 そこには、魔力量、スキルの2つの項目がある。

 魔力量の項目の横には21万4300と書かれており、スキルと書かれた項目の横には4つのスキルが書かれていた。

 隠密、鬼神、未来予知、???


 この3つのスキルは、生贄となった3人のスキルを引き継いだものらしい。


 ???となっているのはユウキ自信のスキルなのだそう。どうやら、この水晶をつかってこの部屋にいた女性のスキルを効果的に発動させてスキルカードを作っているのだとか。


 そのため、女性のスキルでは暴けないほどのスキルでどのようなものなのか回目見当もつかないらしい。

 

 これらの騎士などの戦闘職の平均は魔力量6万、スキルの数はこの世界人間は一つしかもてないのだそうだ。

 

 これは犠牲となった3人の命の結晶だ。

 俺をこの世界に呼ぶためだけに3人。

 こんなその場で決めたような決意は、彼らの足元にも及ばないだろう。だけど!


「俺が、彼らに代わって魔王を倒します!!」


 そう高らかに宣言したのだが、


「あー、違う違う」


 国王に否定された。


「え?」


「そなたに殺してほしいのは魔王などではない」


「じゃあ、誰を……」



国王は天を仰ぎ、言う。


「英雄どもだよ」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る