第3話
目が覚めたら見知らぬ天井があった。
「は?」
まず、いつの間に俺は眠っていたのかというか意識を失っていたのかとかはさておくとして、また見知らぬ天井を見上げる事となったので流石に警戒せざるを得なかった。
とはいえ今回は手足に鬱陶しい手枷が付いているなんて事はなく自由だったし、だから俺は身体を起こして周囲を見渡す。
そこはありていに言ってしまえば俺が知っているような学校の保健室のような場所だった。
ただそれはベッドの周囲を真っ白なカーテンが仕切っているからであり、だからぱっと見た感じ病室のようにも見える。
……病院特有の薬臭さがないからこそ学校の保健室のようだと思った訳だが、しかしカーテン先の景色が見えない以上ここが本当にそこかどうかは分からない。
だからこそ俺はぐっと息を呑み込み警戒心をさらに強め、何が出てきても大丈夫なよう気を付けつつカーテンをゆっくりと動かしてみる事にした。
「あら、起きたのね」
俺の予想は完全に外れ、そこは病室とも保健室とも違う景色が広がっていた。
四方がむき出しのコンクリート壁になっていて、狭い部屋の中はあまりにもものが置かれておらず殺風景。
そして壁際の方にはこれまたシンプルなデザインの机が設置されており、そこで作業を行っていたらしい少女がこちらを振り返って挨拶をして来る。
「おはよう、目が覚めたかしら」
「……貴方は」
「ああ、私は」
ジーンズに少しだけよろよろとしているシャツを着ている少女はそこで名乗るのかと思ったが、しかしその前に「ああ、そうだ」と何かを思い出したようで視線を机の方に戻す。
そこから何かを手に取り、それをこちらに持ってくる。
「はい、まずはこれ。大事なものだから」
「それは」
それは、意識を失う前に何故か俺の手元にあった一枚のカード。
正体は分からないけど、「大事なもの」と言ったのだから目の前の少女はこれが何なのか分かっているのだろか?
「私の名前は、シズク。とりあえずシズクと呼んでちょうだい」
「シズク……」
「魔法少女よ」
「魔法……ん?」
いきなりメルヘンな単語が出て来たので流石に首を傾げる事となった。
そんな俺の反応に対してどうやら少女――シズクは思う事があったようで「まあ、そういう反応よね」と頷いて見せる。
「貴方、魔法少女なんて知らないわよね」
「いや、魔法少女って言葉は知っているけど、えっと」
「実在する魔法少女の話よ……私はその、実在する魔法少女」
「……」
「とりあえず、そこから説明を始めましょうか」
曰く。
魔法少女とは、この世界の裏側に存在する空間から表へと進出しようとしているモンスターを倒す事を生業としている存在。
名前の通り、少女にしか変身する資格を得る事が出来ない。
そんな彼女達は今も昔もそのモンスターを倒す為に日夜頑張って来たらしいが、しかし最近怪しい動きがあるらしい。
「……魔法少女の、不審死?」
「ええ。そもそも魔法少女自体がそれぞれ交流を持たないから、そもそもとして他の魔法少女がそのような目に合っている事を知っている人は少ないけど」
「貴方はどうやってそれを知ったんだ?」
「それは──いえ、それはいまは置いておくとして。とにかく私はそれを調査していて。その先で貴方を見つけたの」
彼女は一度言葉を区切り、俺の目をじっと見つめてくる。
いや、まるで俺の瞳の奥にいる何かを見通しているようで。
それから、ため息をひとつ吐いた彼女は言う。
「貴方は、魔法少女を魔法少女にする元凶とも言える存在、【メルヘンビースト】から改造手術を受けていた」
貴方はもう、人間ではないのよ。
魔法少女な世界観だけど明らかに俺だけ時間帯が違う件 カラスバ @nodoguro
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