第2話 改造手術、あるレイダーの誕生
転生者である俺は、その転生という経験をしているからこそある程度の神秘的な出来事について『起こり得る』と思うようになっていた。
現代社会に生まれ直す事になったのは、ファンタジー世界というのは文明レベル的に治安が悪そうな気がするので、だから今の地球、それも日本に産まれたのはきっと幸福な事だろう。
だが、やはり転生してから既に16年の月日が経験したのにも関わらず特にスピリチュアルな出来事に一切遭遇しなかった時点で「ああ、この世界は普通の世界なんだな」と諦める事となった。
いやまあ、実は表の世界は普通に見えるけど実は裏世界では現代異能バトルが行われているとかあるかもしれないけど、だけどそれは表の世界の住人である俺には関係のない話である。
遠坂竜二、16歳。
産まれた当時に作成した『持っていたら嬉しい能力リスト』ノートが今やしっかりとした中二病ノートとして黒歴史化してしまっているどこにでもいるような普通の男子高校生である。
「はあ、やれやれ」
何はともあれ普通の現代社会に産まれて何のアクシデントも経験する事なく普通に生活出来ているのはきっと幸福な事だろう。
そのように思える程度には精神的にも肉体的にも大人なので、だから今日も今日とて俺は学校に向かう。
それで小テストとか急に来られたら困るなーとか、そんな風に考え事をしながら最寄り駅へと向かっていると。
『という訳で、幸運なそこの男子! 君に決めた!!』
「……へ?」
視界が暗転。
一体何が起こったのかは分からないが、なんか嫌に不気味なほど明るい声が聞こえたような気がした。
「は?」
そして、次の瞬間。
俺は、両手両足を拘束されて天井を見上げていた。
当然のように動けないし、そしてそんな俺を謎の生物……生物?――が見下ろしてくる。
その生物はパンダのように見えた。
メルヘンチックなぬいぐるみ、マスコットのような外見のそれの口から――多分、先ほど聞いたであろう声と同じそれが発せられた。
「君は、これから魔法少女の敵として改造されるもん。幸福な奴だもん!」
「な、何言って――」
「あ、拒否権とかないもん。さっさと怪物になるんだもん!」
刹那。
俺の身体を鋭い痛みが走った。
視界にイナズマ、電撃が走ったから多分電撃が身体に流されているのかもしれないと思ったけど、次の瞬間そのような思考すら出来なくなってしまった。
なんだか肉が焼けるような匂いがしたような気がした。
それすらも一瞬で多分気の迷いか、あるいは俺の気がふれてしまったのか。
どちらにせよ、俺は先ほど見た謎の生命体から何かをされているらしいのは間違いないみたいだ。
一体、何が……?
「ぐ、ぁ……」
そして、それら痛みはやって来た時と同じ様に気付いた時にはなくなっていて。
「な、ん……」
思考を埋めつくされている、憎悪、悪意、破壊衝動。
それらがどっと思考の中に押し寄せてきて、目の前のすべてを壊して仕方がなくなっていく。
「あはは! さあレイダータイプ一型! 今から魔法少女達をぶっ殺しに行くんだもん!!」
どこからか耳障りな声が聞こえてきたが、今はそれどころではなかった。
目の前にいる、小さな少女。
恐怖に震えている、少女。
それを今すぐにでも自らの咢で砕きたくて、砕きたくて、それで――
「……!!!!」
な、ダメ。
駄目だ!
何を考えているんだ、俺は。
そんなのは間違っている、正しい事じゃない。
目の前にいるのは、か弱い女の子だぞ?
それをどうして、壊そうだなんて考えられる?
「ぐ、ぅ、おおおお」
俺は己の中に溢れている悍ましい感情に抗いながら、兎に角この場から離れなければと意思を決定した。
気づけば俺は薄気味悪い色の空がある世界にいて、だけど兎に角足を動かしてこの場から脱兎のごとく逃げ出したのである。
走って、走って、走って。
そして、気づけば俺の肉体は元通りの人間のそれに戻っていた。
……俺の手の中には一枚の金属製のカード。
そこには一言、『meta-mole-fusion』という文字列が刻まれていた。
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