圧倒的、シンデレラ……っ!!(もし名作童話がカイジ風になったら)

小林勤務

第1話

 昔々あるところにシンデレラという美しい娘がいた。

 彼女の美しい見た目に嫉妬した義理の母と姉たちに、シンデレラは冷たい仕打ちを受けていた。


 苦しくても、シンデレラは他に行くあてもない……っ。


 甘んじて受ける……っ!


 辛酸を舐める……っ!


 屈辱っ!


 恥辱っ!


 焼き土下座……っ!


 ありとあらゆる仕打ちを受けても尚、未来を見据えるしかない毎日……っ!


 夢と希望、将来への計画……


 人が誰しも目指す栄光への架け橋。


 ことごとく打ち破られる。


 意地悪な姉たちによって!


 そんな日々のなか、ある感情が芽生える……


 復讐……


 圧倒的、復讐。


 その悪の心が芽生える……っ!


 いつか、意地悪な義母と姉たちへ……っ!


 上流には上流の、下流には下流の生き様がある。


 そんな毎日がシンデレラを支える。 



 そんなある日、あるイベントが開催される。

 なんと、お城の王子様が婚約者を探すために舞踏会を開くという。


 弱者が強者へと這い上がる唯一のチケット……っ!


 玉の輿。


 労せず玉座の隣に座れる唯一無二のチケット!


 千載一遇のチャンス……っ!


 圧倒的、機会到来……っ!


 乗り遅れることすら許されない!


 ぐずぐずしている者には、容赦なく閉じる……っ!


 チャンスというのは魔物のようなもの。


 一分一秒が大事。


 勝負はここぞという時に山を張るのが基本……っ!


 臆病者には容赦なく閉じる、この機会。


 負け犬たちは掴むしかない、この圧倒的な栄光へのチケット……っ!

 


 だが、義理の母と姉たちに邪魔をされたシンデレラは舞踏会へ行けそうになかった。


 なんたる不運……っ!


 お城に行くにも綺麗なドレスも馬車もない。


 貧乏人にはチャンスは転がっていても、それに挑む権利すら与えられない……っ!


 富める者には更に富が集まるように、貧する者は更に貧していく、この不条理。


 負けた時こそ胸を張るしかない……っ!


 例え勝負に挑めず、不戦敗だったとしても。


 それを笑う者はいない。


 己がそれを糧に、雌伏の時を待つしかない。


 そう、心が折れた者に社会は甘くない。


 折る。


 更に折る。


 容赦なく心を折る……っ!


 だが、どんな逆境であっても光はある。


 それが蜘蛛の糸のように、どんなにか細い糸であっても、光はある……っ!



 すると、シンデレラの目の前に魔女が現れ、魔法の力でドレス、馬車を手に入れ、舞踏会へ行くことができた。



 僥倖……っ!


 なんたる僥倖……っ!


 圧倒的!


 圧倒的、僥倖……っ!


 権力者が決めたドレスコードという強者と弱者を分かつ、見えない壁を打破!


 見えない壁ほど脆いものはない。


 何故なら、それは見えないからだ。


 ルールというものは、そのルールに乗っかりさえすれば実に脆い。


 それを、今、持たざる者――シンデレラが証明……っ!


 意地悪な義母と姉を出し抜き、舞踏会へと走る!


 息を切らせて走る!


 未来を掴むため……っ!



 シンデレラが見た舞踏会はまさに勝者の宴。


 一口飲めば至福の喜びへと誘う美酒。


 まるで天にも昇るような心震わすハーモニー。


 そして、上流社会の象徴たる貴族たち。


 農奴、貧者を貶め、日夜宴を催す。


 一癖も二癖もある貴族たちに負けず、王子様を射止めるためシンデレラは華麗に振る舞う。


 この機会を逃したら、再びどん底の生活。


 陽が差さぬ地下労働者へと逆戻り。


 それは絶対に避けなければならない。


 絶対に負けられない戦い……っ!


 必ず勝て!


 勝つしかない!


 勝たない人生など何の価値もない!


 

 しかし、運命はまたもシンデレラを弄ぶ。

 魔女との約束により、0時になるとドレスも馬車も消え失せる。


 魔法に永遠などない。


 時限的かつ限定的!


 世の中に全てを叶える魔法などない。


 大人の寓話。


 それが魔法。


 魔女は社会の代表者。


 社会はそこまで無制限に手を差し伸べたりしない。


 そう、無制限の愛は我が子に向ける愛だけ……


 ドレスコードを犯した罪は重い。


 露になる、その見すぼらしい服装。


 化けの皮剥がれる。


 貴族社会に夢見た、貧者の滑稽さが日の下に晒される。


 嘲笑う貴族の絵が見える。


 ここは逃げるしかない!


 悔しいがここは一旦退却。


 退却を知らずして突っ込むのは愚策。


 愚策中の愚策っ!


 策を弄するだけでは駄目。


 また、無策でも駄目。


 常に勝利を目指して積み上げるっ!


 戦略。


 勝者は勝つべくして勝つ……っ!


 その戦略!


 シンデレラは走って逃げる。


 だが、急いで逃げたのでお城にガラスの靴を片方落とす。



 それが運命の靴とも知らず、こうして一夜は過ぎていった――



 再び戻る貧しい暮らし。


 義母、姉たちの執拗な苛め。


 彼女たちもシンデレラ同様に貴族たちの社会に溶け込めず失態を晒す。


 嘲笑を受け、元居た場所に戻る。


 ここが私たちの居場所。


 憂さを晴らす。


 シンデレラを苛めることで昨夜の憂さを晴らすしかない。


 弱き者は、更に弱い者を叩く。


 この世の常。


 いつの時代も変わらない。


 悔しいがシンデレラは甘んじて受け入れるしかない。


 心が折れそうになるが、再びチャンスを待つしかない。


 雌伏。


 雌伏こそが唯一の対抗手段……っ!


 増幅される憎しみこそが武器。


 だが、虚しさも募る。


 募るが仕方ない。


 今は。


 その時まで――


 

 そして、チャンスは訪れる。


 なんと、王子様は昨夜の舞踏会で出会った美女に一目惚れをしたらしく、その美女が落としたはガラスの靴をたよりに下界を探していた。


 だが、どんな知らせもそれを当人が知らなければ何も始まらない。


 情報は武器。


 だが、情報はそれを欲する者しか、その真価を発揮しない。


 まさに誰よりも情報を欲するシンデレラのもとには届かず、いたずらに時を過ごした――



 そして、運命の歯車は動き出した。



 王子様がとうとうシンデレラの家を訪れる。


 最初は義母が手を挙げ、次に姉たちが名乗り出る。


 だが、彼女たちに入る靴ではない。


 真実は常にある。


 誰もが目に見える形で。


 無理やり靴を履こうとして、従者から容赦なく鞭を浴びる。


 下がれ、下郎!


 泣き叫ぶ義母と姉たち。


 貴族は弱者を人間扱いしない。


 それは自然に身についていること。


 人間が動物を家畜と呼ぶように。


 貴族もまた貧しき者を家畜と呼ぶ。


 そのため、容赦なく、躊躇なく、ふるう。


 その鞭を!


 泣き叫ぶ義母と姉たちを横目に、遂にシンデレラの番になる。


 そして――


 彼女が片足を入れた途端。


 まるで、そこに収まるために作られたかのようにすっぽりとその足が収まる。


 1ミリも違わず。


 そう。


 まさしく真実が誰の目にも明らかになる。


 シンデレラの感情。


 これは何といえばいい。


 最初は小さく。


 徐々に、徐々に、大きく。


 やがて誰にも止められないほど大きく。


 強大なうねり……っ!


 業火っ!


 内なる爆発っ!


 巻き起こる歓喜っ!


 シンデレラは思わず叫ぶ。


 声にもならない叫び!


 目から鼻から、口から……っ!


 ありとあらゆる水分が弾け飛ぶ……っ!


 嗚呼!


 これを奇跡と呼ばずして何と呼ぶ! 


 奇跡!


 奇跡!


 僥倖!


 僥倖!


 圧倒的、僥倖!


 圧倒的かつ究極的な僥倖!


 ハッピーエンド!


 ハッピーエンド!


 まさにハッピーエンド!


 これ以外表現できない喜び!


 今まで苛められた義母と姉たちに、復讐する気すら起きさせない程の歓喜!


 そして、幕を閉じる!


 全てのことには終わりがある!


 圧倒的な幸福と確かな未来!


 強者への階段!


 その未来に向かって!


 走れ!


 走れ!


 躊躇なく走れ!


 人生に終わりはない……っ!







 完……っ!


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圧倒的、シンデレラ……っ!!(もし名作童話がカイジ風になったら) 小林勤務 @kobayashikinmu

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