05:七月三一日(水)/Web/資料(1)
■押尾聡のSNSブックマーク■
押尾聡は、藍ヶ崎大学関係者以外にも「暗がりの中で眼球に凝視される夢」を
その上でまた、該当者が
ただいずれにしろ、それだけに私が藍ヶ崎大学の学生と同じ悪夢を視たことについて、押尾は多少の驚きを禁じ得ない様子だった。何しろ、私は県外から来訪した局外者だったのだから。
かてて加えて八月以前の時点で、それが重大な生命の危険につながるという認識に至ることは、常識的に当然あり得なかった。もし押尾が千里眼の持ち主で、未来の危険を予知できていたとしたら、私をフィールドワークで地元に
……とはいえ一方で、押尾はかくいう怪奇現象に対し、早くから相応の興味を持っていた。
彼の民俗学上における研究対象は、何しろ「現代怪異譚」なのである。ネットロアや都市伝説が身近にあれば、これを採集しようとするのは、極めて自然なことだった。
七月末日。
事前の約束に従ってフィールドワークに協力してもらうため、私は押尾と打ち合わせすることになった。
話し合いの場は、藍ヶ崎大学のキャンパスもある
その際に雑談の中で、再び悪夢の話題になり、押尾は当時把握する範囲で、いくつかの情報を提供してくれた。
取り分け印象的だったのは「自分以外にも、同じ悪夢を視た学生が存在している」と察知した端緒の話だ。
あるとき押尾はSNSで、藍ヶ崎大学の学生を名乗るアカウントのいくつかが、あの不気味な夢に関して発言している事実に気付いたという。
SNSでは自動のレコメンド機能で、ユーザー各人の関心が高そうな内容の投稿を、しばしばトップページで優先的に表示する。そうした投稿を
――もしかしたら後日、研究の対象になり得る発見かもしれない。
そう考えて、押尾はSNSで特に目に付いたユーザーの発言を、次々にブックマーク登録していったらしい。
尚、同じ悪夢に接した人間の一人として、参考までに「発言個々の投稿先アドレスをテキストデータに保存し、あとで送信してくれないか」と頼むと、押尾はこの日の夜にすぐさま対応してくれた(※1)。
以下に引用するSNSの発言は、そのとき情報共有したブックマークの一部である(※2)。
○ ○ ○
―――――――――――――――――――――――
【 シンサク 】 @shine3quu2002
なんか昨日の夜? 今朝方? めちゃキモい夢
みたわ。どっか暗い場所で、
すげぇデカい目玉に見られてる夢。
なんだあれ
返信:0 RP:0 いいね:3
―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――
【
酷く悪い夢にうなされて、目が覚めました。
あまり気分が良くありません。
返信:1 RP:0 いいね:6
―↓―――――――――――――――――――――
【 ☆AIMI☆ 】 @superstaraimi
スガクンおはよー!
イヤなユメみちゃった?
げんき出してこ!
返信:1 RP:0 いいね:0
―↓―――――――――――――――――――――
【 菅原 】 @k_sugawaraman
AIMIさん、おはようございます。
そうなんです。暗がりで一人きりになって、
誰かから凝視されている夢で……。
いや、正確には人間に見詰められていたのか
どうかもよくわかりません。
とにかく怖かったです。
お
返信:1 RP:0 いいね:0
―↓―――――――――――――――――――――
【 ☆AIMI☆ 】 @superstaraimi
ひゃー なにそれめっコワじゃん!
ていうかなに カイブツ?
ようかいとか出てきちゃった?
返信:1 RP:0 いいね:0
―↓―――――――――――――――――――――
【 菅原 】 @k_sugawaraman
ああ、妖怪……
たしかにそうなのかもしれません。
目玉だけの怪物でした。そういう妖怪も存在
するのでしょうか。
返信:1 RP:0 いいね:0
―↓―――――――――――――――――――――
【 ☆AIMI☆ 】 @superstaraimi
あ どうだろ わかんないけど笑
でも 目だけって
やっぱコワそーだね~
返信:0 RP:0 いいね:1
―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――
【 うい 】 @ui_flowercolor
すごく気持ち悪い夢で眠れなかった。
真っ暗な場所で、ふたつの目からじいーっと
見詰められる夢なんだけど、
怖かった~……
返信:1 RP:0 いいね:1
―↓―――――――――――――――――――――
【 うい 】 @ui_flowercolor
それとなぜかベッドから起きてみたら、
お部屋のカーペットが湿っていたんだよね。
天井から
つらい
返信:0 RP:0 いいね:0
―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――
【
夜中に不快な夢で飛び起きた。
暗闇に浮遊する
に見ている夢だ。
もっとも夢の中でしばらく経つと、二つの眼球
は暗闇の深いところへ
返信:1 RP:0 いいね:2
―↓―――――――――――――――――――――
【
葛西さん、こんにちは。
なかなかホラーな夢ですね。
少し
眼球が闇の深いところへ退くように消えた」
という表現が特徴的で、興味深いです
返信:1 RP:0 いいね:1
―↓―――――――――――――――――――――
【 葛西雅紀 Masaki Kasai 】 @kasai_low
単純に消えてなくなったというより、まさに
奥の方へ引っ込むようにして見えなくなった
んですよね。
もしかしたら、あの闇の中には眼球の持ち主
の本体が存在していたのかもしれません。
あくまで想像の話ですが
返信:0 RP:0 いいね:1
―――――――――――――――――――――――
○ ○ ○
△注釈△
※1)「泥の死」事件被害者である押尾聡のスマートフォンやノートPCは、現在警察が証拠品として保管している。押尾のSNSアカウントは、SMSを使用した二段階認証登録により保護されているため、第三者がアクセス可能な状態にはない。しかし本稿の筆者(私)は、前述した通りブックマークされた発言をアドレスから引用することができた。
※2)押尾は、基本的に返信が複数連なっている投稿の場合、ツリー最上段に位置する発言のみをブックマークに登録していた。ただし、ここでは投稿者の発言内容を、正しい文脈に基づいて把握して頂くため、下部に続く投稿もすべて引用しておく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます