第5話 花子さんと大脱出!
「だって、ライトがあるとおもしろくないんだもん! ここからが、本当のお化け屋敷だよぉ!」
花ちゃんが両うでをバッと広げた。
同時に、わたしたちを取り囲むように、たくさんの光る目が、ギョロッとこちらを見た。
見られている気がしたのは、この目たちが原因なの!?
「……ゼロ」
晴夜くんがわたしに、にこっとほほ笑みかける。
でも、すぐに険しい表情に変わった。
「逃げるよっ!」
ダッと走り出す。
「わあぁっ!?」
足がもつれる……!
転びそうになったところを、晴夜くんが引き上げた。
「そうなるだろうね。ドジでおっちょこちょいだもん」
言い返す気にもなれないな……。
「花ちゃんが案内するねー! 2人とも、頑張ってついてきてね!」
花ちゃんが、晴夜くんの前を空中浮遊する。
わたしは、花ちゃんと晴夜くんになんとかついていく。
2人とも速いよ……! もうヘトヘト……。
「……あっ。そっか、ごめん」
晴夜くんが、わたしをチラッと見て、なぜか謝った。
そして、何をどうやったのか、わたしを抱え上げる。
……って、お姫様抱っこ!?
待って待って! それはあんまりにも恥ずかしいよっ!
「はいはい、表情がうるさいよー」
「なにそれ!?」
晴夜くんは、わたしを抱えたまま、とにかく走る。
晴夜くんの肩越しに後ろを見ると、たくさんのお化けが追いかけてきている。
かなりの人数が、血をダラダラと流しながら……。階段の人体模型もいるし、晴夜くんが言っていた「血だらけのネコ」もいた。本当にグロい……。
今度は、晴夜くんを見上げた。
「晴夜くん、怖くないの!?」
「ヘーキ、ヘーキ」
そんな会話をする背後では、ドンガラガッシャーン! ガコーン! バコーン! っと、轟音が響いている。
もう一度後ろを見てみる。
タイミングぴったりに、大きな目玉が猛スピードで壁にめり込んだところだった。
なんなんだろう、このお化け屋敷。
「みんな、ゼロちゃんが可愛いから、はしゃいでるんだよ」
「え?」
反射的に、花ちゃんに顔を向ける。
そんなこと言われても、わからない。
わたし、とくに可愛くないし。
「え、ゼロちゃん可愛いよ?」
そんなことないよ。だってモテないもん。可愛かったら、モテるはずだもん。いくら存在感0でも……。
って、今はこんな話をする場面じゃなくない!?
「見て! あそこが、出口だよぉ!」
花ちゃんが、小さな光を指さした。
その光を目指して、晴夜くんと花ちゃんは一直線に走る。
とうとう、光を通り抜けた。
「まぶしっ」
わたしは、目を細める。
お化け屋敷から離れたところで、晴夜くんはわたしを下ろした。
大きな音がして、お化け屋敷を振り返る。
建物は、ヒビが入って崩れ落ちていった。
「ええ……」
「あれ、どうすんの?」
「あとで、花ちゃんが直しとくよ。みんなも、もう避難したと思うし」
花ちゃんの言う「みんな」は、お化けたちのことかな。
それにしても……。
「怖かったぁ……」
わたしは、地面にへたりこんだ。
もうお化け屋敷なんて、ごりごりだよ……。
わたしは、大きなため息をつく。
「ゼロが可愛かったから、僕は満足」
晴夜くんが、わたしの顔をのぞきこんで、嬉しそうに言った。
それ、どういう意味?
「さて、どういう意味でしょう?」
むぅ……。すっごく怖かったんだからね。
「ずっと心臓バクバクだったから、お腹すいた。ご飯おごって」
「えー……んなめんどうな」
晴夜くんは、ポケットからお財布を取り出した。
それから、お財布を開いて……もしかして、本当におごってくれるの?
冗談のつもりだったんだけど……。
「いくらあれば足りるかな……」
お金持ってるの、いいなあ……。
晴夜くんち、お金持ちだもんね。
町の偉いお家だとか。
「偉いって言っても、自治してるだけだよ。それと、今日はそんなに持ってない」
自治体の役割を果たしてるのが、そもそもすごすぎるんだよ。
社会の勉強だと、ほかの市町村は仕組みが違うみたいだよ。
「この町はおかしくないからね。けっこうあるよ、そーゆーとこ」
何を根拠に言ってるのかわからないけど、町から出たことがある晴夜くんが言うと、信じちゃいそうになるなぁ。
「ふぅーん。君のお家、そんなにすごいんだぁ」
目が笑っていない花ちゃんに、晴夜くんがいぶかしげな表情を向ける。
花ちゃんは腕を組んで、晴夜くんを少しにらんだ。
「……カフェとかある?」
晴夜くんは、優しく語りかけた。
睨まれたことは気にしていないっぽい。
「うん。こっち」
花ちゃんは、表情を変えないままうなずく。
行き先を指さして、空中浮遊して進み始めた。
花ちゃんといい、カンナちゃんといい、どうして晴夜くんに冷たい態度をとるんだろう……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます