第8話 相滝くんの自己紹介クイズ
数分歩くと、カフェに到着した。
日があたる3人用のテラス席に座る。
「お花さん、オレンジジュース3つちょーだい」
花子さんが花の杖を軽く振るとテーブルにジュース入りのコップがあらわれた。
「今、呪文省略した?」
相滝が驚いた声を出す。
顔が隠れるメガネをかけているから、表情がわかりにくい。
「花ちゃんは妖怪ならみんな使える妖力を操ってるだけだから、呪文言わなくても出せるの。魔法使いになった気分で楽しいからヒラヒラ言ってるだけだよ。あとネコちゃんたちは急に物が出てきたらビックリするでしょ? 合図がなくっちゃ」
「それはそうかも。花子さんは妖怪なのに魔法使いに憧れるんだね」
「うんっ! キラキラしてて大好きぃ!」
花子さんは幼い見た目でありながら何十年もひばり学園に住みついている妖怪だけど、幼いことは中身も同じらしい。
「ネコちゃん天然ちゃん、今から何する? たーっくさんお話しようよ!」
幼い花子さんは、両腕を大きく広げてバンザイ。
テーブルがガタッと音を立てて揺れた。
俺と相滝は同時にジュースが入ったコップとテーブルをおさえる。
「危ないよ花子さん。コップが倒れちゃうでしょ」
「ごめんねー」
相滝が優しく注意すると、花子さんはおとなしく椅子に座って謝った。
「ジュースがこぼれたら、たまったもんじゃない」
そうだな。
白い制服だから、汚さないようにしないといけない。
「で、悪霊退散くんは何か話したいことある?」
話したいこと?
そりゃもちろんあるよ。
「俺は相滝のことを教えてほしい」
「そっか。僕のことを知りたいから遊びに誘ってくれたんだったね。そうだそうだ、忘れてた」
忘れるなよ。
「ごめんごめん。クイズとかどう?」
相滝は左手の指を3本立てた。
口の端をキュッとあげて笑顔を作る。
「これから僕が3つ質問するよ。すべて僕に関すること。クイズに答えると僕への理解が深まるってわけ」
なるほど。わかった、やろう。
「花ちゃん、効果音やるー!」
花子さんが、楽しそうに飛び跳ねた。
もう一度コップとテーブルをおさえると、さっきの注意を思い出したのか別人のように静かになる。
ジュースはこぼれなかったので一安心だ。
「では第1問!」
「デーレンッ!」
「僕の名前は『せいや』ですが、漢字はなんでしょーか」
そんなの、去年同じクラスだったから数え切れないくらい見たぞ。
「晴れるに夜だろ? 覚えてないとでも思ったか」
「せいかーい。確認だよ、ただの確認。覚えてないとは思ってないから。ちなみに漢字間違いよりも読み間違いのほうが多いよ」
読み間違いか……。俺も最初は間違えたな。
相滝に名前の読み方クイズを出されて『はるや』と読んだら、めちゃくちゃ怒られた。
「ひばり学園に合格した人が間違えるなんて思わなかったんだもん。晴夜って二字熟語にあるよ」
勉強不足ですいませんでしたね。
一応謝っておく。
けど名前の読みと二字熟語の読みは別物な気が……。
「ではでは、第2問!」
「デーレンッ!」
細かく考えていたら置いてかれるな、これ。
名前のことは忘れよう。
「僕が得意な教科はなんでしょう?」
「得意教科?」
そういえば相滝は意外と成績が良いんだよな。
普段の言動からは、あまり想像できないのに。
ただし文系に限る。
国語は100点近く取るし、社会と英語は毎回80点以上。
理科は平均くらいか。
ダメなのは数学。赤点をギリギリで回避している。
1年のときに点数を教え合ったりしていたのを覚えている。
相滝と勝負するといつも文系では負けて理系では勝った。
五教科の合計は同じくらいだったな。
相滝は国語なら学年トップレベルだから、得意教科は……
「国語だな」
「ピンポーン。ゼロには負けるけどね」
神在月と比べないほうがいいと思うな。
「そうだよね。あの子、全教科満点だもん。さすが特待生って感じ」
うんうんとうなずいていると、花子さんが興味深そうにまばたきした。
「ゼロちゃん頭いいんだね」
「うん。小学生のころから、ゼロが100点以外を取ったところ見たことない」
「俺は中学からだけど、必ず満点だよ」
普段の小テストから学力テストまで全部。
本当にすごいけど、存在感ゼロだから問題用紙を配り忘れられそうになるようで、毎回相滝が先生に声をかけていたな。
「そんなに勉強頑張らなくてもいいよって言いたくなるんだけど、特待生だから言いづらいんだよね。成績を維持するには勉強するしかないもん。ゼロには家庭の事情があるし」
「だよな」
神在月は母子家庭だそう。
私立に通うためには奨学金が必要なんだと。
「お願いしてくれたら学費はうちが出すんだけどなぁ」
それはルール的に平気なのか?
それとお前の家の金は大丈夫?
「ルールは知らない。家のお金は気にする必要ないよ。だいたい学費くらい余裕で払える。僕が稼いだお金でね」
今の言葉は聞かなかったことにするよ。
相滝は大人になっても俳優を続けて、ずっと大金を稼ぎ続けるのかな……と遠い存在に思えたのは忘れよう。
「それじゃ、第3問だよ」
「デデデン!」
「僕の習い事はなんでしょう」
習い事?
うーん……そういえば全然知らない。
ありえそうな習い事はなんだろう。
「字が綺麗だから、習字とか?」
相滝は字が本当に上手い。
書道の教科書かと思うほどだ。
「あたり。まだあるよ」
まだあると言われてもなぁ。
運動神経はいいけど、スポーツ系の習い事の経験はないらしいし。
そもそもテレビに出ながらいくつかの習い事なんてできるのか?
学校を遅刻や早退するくらい忙しいのに。
「ブッブー! 時間切れ〜」
「早くないか!?」
ていうか制限時間あったのかよ。
「正解は、書道と合気道、雅楽」
ががく……? って、音楽か。
習える教室があるんだな。
「知り合いに教えてもらってるから、家庭教師みたいなもんだよ。どれも最近はあまりやってないけどね。仕事が忙しくてさ」
「やっぱり芸能人は大変だな」
「まあ、僕くらいになればね」
相滝は自慢げに胸をそらす。
その様子を見て、花子さんが何度かまばたきした。
「ネコちゃん、すごい子なの?」
花子さんは知らないのか。
相滝は超天才子役って言われる役者なんだよ。
写真を見せて「この子の名前を知っていますか?」と聞くと誰もが木瀬彩と答えるくらい有名で、テレビで見ない日はないくらい売れているんだ。
「えっ、もう中学生なのにまだ子役なの?」
花子さんは口を小さな手で隠した。
丸い目がさらに丸くなっている。
「その言い方が定着してるの。さすがに僕も子役って年齢ではないよなぁと思ってる」
子役ってだいたい小学生だよな。
でも別に気にすることないだろ。
相滝は子どもっぽいし。
「少なくとも、悪霊退散くんよりは大人だと思うけどね」
いいや、俺の方が見た目も中身も大人だよ。
「どうでもいいことでケンカしないのー。オレンジジュース飲んで仲良くしようよ」
「ああ、ごめん。いただきます」
不満そうに眉を下げる花子さんにとりあえずといったふうに謝ると、相滝はオレンジジュースのストローに口をつける。
これが家や自販機のジュースなら、抵抗なく飲んだんだけどな……。
「天然ちゃん、花ちゃんが出したジュースだけど、中身はスーパーのオレンジジュースと同じだから安心して飲んで。変なの入ってないから。祓い屋となると色々考えちゃうのはしょーがないよねぇ」
うんうんと首を縦に振る花子さん。
なんだ、それなら大丈夫か。
「ここでホットケーキを食べたゼロがなんともないんだから、ジュースもダイジョーブに決まってるじゃん。悪霊退散くんったらー」
相滝がケラケラ笑う。
「ジュース減ってない。ネコちゃん、まだ飲んでないでしょ」
「あっちゃあ、バレちゃった」
お前も警戒してんじゃねーか!
飲んでないのに、よく言えたな。
「ちゃんといただきますよー」
相滝はヘラっとふざけたように笑うと、もう一度ストローを口にくわえる。
今度はジュースが減っているので、花子さんは満足そうに笑った。
「このあとはどうするのー? 花ちゃん、ネコちゃんたちと遊びたいなぁ」
「じゃあ、もう少し休憩してからにしようね」
「そうだな」
相滝のことを知りたいと思って行動に移したはいいものの、相滝自身は自分のことを深く話す気はなさそうだ。
相滝が自ら話してくれるまで、待ち続けることにしよう。
とにかく今日は、今を楽しもう。
その日、花子さんに振り回されることになったのは言うまでもない。
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