第2話 『キリン橋』
「……暑い」
田舎は涼しい、なんて言ったやつはきっと田舎に行ったことがない。
僕は額から流れてくる汗を拭いながらそう思った。
早々に思いつきでこんな所に来てしまったことを後悔していると、古ぼけた看板を見つけた。
『縞岩倉』
はて、こんな名前の村だったかと頭をひねる。
しかし周りの風景にはうっすらと見覚えがあるし、子供時代の記憶なんて適当なものだから仕方ないかと納得した。
僕の名前は白河浩一。
つい最近職場を退職して、母方の実家で過ごしている時にふと子供の頃に行っていたおじいちゃんの家に行きたくなったのだ。
母にそのことを言うと住所が書かれた紙だけ渡されたのだった。
母は『縞岩倉』について何も言わなかったが、おじいちゃんの家は父方の家。
母としても何とも言えない感情があるのだろうと追求はしなかった。
僕としてはそれなりの貯蓄と時間、そして車がある今、もう行けないと思っていた場所に行けるじゃないかと思い立っただけで何か複雑に渦巻いた感情があるわけではない。
思い出の場所を周りながら懐かしさに思いを馳せられればいいだけで、飽きたらすぐに帰ったっていい。
「さて……」
とはいえいい加減自販機どころか人の姿すら見当たらないことに少し焦りを感じてきた。
かれこれ1時間近く適当な路肩に車を止めたままなのだ。
盗られて困るような物は置いていないし、田舎だからそんなに気にすることではないかもしれないが、思い出の場所で変なケチを付けられたくはない。
「───いたっ」
途方に暮れていると、ちくりと腕に痛みを感じた。
見れば腕には赤くなった虫刺され。
これだから田舎は……と辟易しているとふと頭に昔の思い出が蘇った。
「そうだ、『キリン橋』そういえば虫取りにいつも行ってた森には長くて黄色い橋を通って行ってたんだ」
一旦そのことを思い出すと染み出してくるように色々な記憶が蘇ってくる。
夏の間だけやってくる僕を仲間に入れてくれた三人の友達。
ガッちゃんとマルちゃんとはよく虫取りしたっけな……。
「そうだ!確かあそこにはけっこうデカい川が流れてたはずだ。あの辺はおじいちゃんの家からけっこう近かったしそこを目指してみるか」
目印のない散策に行き場所を見つけた僕は思い出に浸りながら『キリン橋』を目指した。
ムシクヒ様と『ツギハギサマ』 異界ラマ教 @rawakyou
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