月日が忘れさせるなんて嘘

甘えベタ

第1話:どれほどの月日が経っても

私は、正直恋多き人だったと思う。と言うか惚れっぽい。少しの事でも好きになり、この人が私の運命の人!

と思い込むと最後。

真っ正面から相手に全力でアピールをして

全力でアタックしていた。恥ずかしさなんて

微塵も感じていなかった。好きな人に好きって

言って何が悪いの?と言うタイプだった。

小さな頃から好きな人に全力で当たってフラれても

自分の中での好きの基準を満たす人が現れたら

すぐに惚れて、またアピールして…。

見た目もスタイルも全然良くない。寧ろ悪い。

なのに常に誰かを好きでいて、

その好きが自分に向くのが嬉しかった。

こんな私でも愛してくれる人は居るんだ。

自信が無いからこその依存に近かった。

誰かに好かれると言う事は私にもきっと

どこか良い所がある。だから好きになってくれた。

自信を付けたかったのかもしれない。

中学生の間に数人付き合ったけれど、

誰かから奪ったりして、その罰に誰かに奪われたり

付き合ってみても何か違うなと逃げ出したり…。 

今になって考えてみたらとんでもなく我儘で

自分さえ良ければ他者の気持ちなんてどうでもいい、

自分の自信の為に人を傷付けていた。

あの当時の人達にはもう会う事は無いと思ってた。

会っても話す事も無いだろうと。

けれど、本当に偶然が重なってほんの少しの期間だけ

付き合っていた人に再会した。嘉月〈カヅキ〉。

ほんの少しの期間だったのに

中学生の時代一番好きになって一番傷付けられた人。

どんな風に喋ってたっけ。敬語?タメ口?

それよりも何年ぶりに会ったかな?と頭の中は

軽くパニックだったのに口を開いたら出た言葉は

『お疲れー!久しぶり!元気そうだね!』

昔と変わらず話しかける事の出来る自分に驚いた。

私も大人になったのかな?なんて馬鹿な事を考えて

近況報告をしたり、色んな話をした。

付き合っていた頃の事を振り返って

『清らかな交際だったから全くの気まずさも無いね』

「ベタは変わらないね。昔のアホのまんま。」

だなんてお互いに笑い合って。

なんだ、私ちゃんと思い出に出来てるじゃん。

笑って話せてるし、未練も無いし、ただ懐かしさを

感じてるだけだ。月日が経てば忘れるって本当だった。

そう思っていた。けれど途中で嘉月の口から出た名前で

月日が経っても忘れられないのだと実感した。

嘉月は知らない筈の私が大好きだった人の名前。

「そう言えば、ベタの昔付き合ってた人居るじゃん。

秋〈シュウ〉さん。」

普通に心拍を刻んでいた心臓が止まった。

『何で、嘉月が秋さんを知ってるの…?』

そう聞き返した後に心臓がドクドクとしているのを

感じた。

「何だかんだ連絡取ってなくてもベタの事は

周りから聞いたりしてて心配してたよ。」

「その時に秋さんの事とかも聞いててね。」

「それで、たまたま仕事の関係で秋さんの名前聞いて

あれ…?ってなりながらも話してたらこの人だって

思ってね。」

『そうなんだね。凄い偶然もあるんだね!』

聞きたい気持ちと聞きたくない気持ち。

その2つの感情のせいか、いつまでも心臓は煩い。

「秋さん、結婚して子供も居るみたいだよ。」

その一言で煩かった心臓はまた止まった。

止まったと同時に少しの痛みも感じた。

秋さんと終わってから随分と長い月日が経っていた。

小さかった子供が成人する程の年月。

なのにその名前を聞いて、知らない誰かと一緒になり

その人と家庭を築き幸せに笑ってる姿を想像して

ただ胸の痛みと悲しみと何とも言えない感情が

一気に押し寄せてきた。

もう前を向いた。未練なんて無い。ただ、どうしても

あの当時の私の若さ故の過ちを許してほしいだけ。

そう周りには言っていたのに、それは強がりだった。

自分とは叶えられなかった家庭を築くという事。

それを知っただけで、こんなにも傷付いているのだ。

月日が経てば思い出になる。月日が経てば忘れられる。

それはきっと誰かが自分の為に、

そして相手の為に吐いた嘘だったのだろう。

どれ程の月日が経っても私は忘れられなかったのだから。

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