第4話 終わり

 縁側で目を開けた男は,古いアルバムを膝の上に広げていた.両親との写真は見つかった.しかし,少女の絵を見つけることはできなかった.あの数日間が夢だったのかと思うこともある.だが,赤い鉄橋に魅せられ,スケッチブックを膝に載せた少女の姿は,今でも鮮明に覚えている.それは彼の人生で唯一,完全に澄み切った視界の中で見た光景だった.


 蚊取り線香の煙が,細く長く立ち昇っている.渦を巻きながら消えゆく白い軌跡は,まるで少女が残した透明な足跡のようだった.もう残り少なくなった線香は,最後の一片を燃やしながら,かすかに赤い光を放っている.それは遠い日の夕暮れ,橋が映した夕陽の色に似ていた.やがて線香は完全に燃え尽き,その小さな灯りも消えた.そのうちにほのかな香りも消えて秋の匂いがやってくる。


 男は立ち上がると,部屋の奥から一枚の画用紙を取り出した.これまで誰にも見せたことのない,拙い絵だった.少年が必死に記憶を頼りに描いた,赤い鉄橋の絵.少女の視点で見た風景を,できる限り再現しようとした痕跡が,今も画用紙の上に残っている.色褪せた赤は,彼の人生で最も鮮やかな色をしていた.

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赤とスケッチ うるさいマイク @micloud

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