第12話 暑がり

 今でも、面会に行くと、義母は布団代わりに掛けてあるバスタオルを跳ね飛ばしています。左半身が麻痺しているのに、右足だけで器用に跳ね飛ばしている。

 義母の洗濯物に1週間に6枚も7枚もバスタオルが入っているのは、きっとベッドの柵を越えて、下に落としたものに違いありません。


 そう。義母は暑がりです。



 義母がまだ元気だった頃のお話。


 夏場はノースリーブの作業着を着ていました。その下は下着みたいな薄い生地のノースリーブ。

 いや、その格好で畑の草取りをしたら、蚊やアブ、ブヨのご馳走になるだろう(汗)。と心配して、長袖を着るように言うのですが、

「なんでよ、暑いじゃない。虫? あー、刺されない刺されない。私、美味しくないみたいよ?」

 と、完全拒否。

 

 確かに、そんな格好をしていたにも関わらず、義母には虫刺されの跡すらありませんでした。

 そして、そんな義母を畑で見つけ、ちょっとと思って油断して虫除けも吹きかけずに、話しかける私。……毎年のようにブヨにやられる。物凄く腫れて、信じられないくらいの痒みと痛みに悶絶するのです。

 あんな危険なところで、何故あんなに無防備な格好でいられるのでしょう?



 冬は冬で、もっと驚きます。


 義母が裏口から上がってきたのがわかったので、

「床冷たいから、スリッパ履いてね」

 と、言いながら、彼女の足元を見て唖然。

「ちょっと! 裸足じゃん!」


 外気温は−10℃を軽く下回っています。確か、最低気温は−20℃近かったよな……。


「靴下くらい履いてよ!」

「だって暑いんだもん」

「ま、待って? それ、ズボン1枚なの?」

「この上に作業着、着るじゃないの」

「いやいやいや、お義母さんの作業着、めちゃめちゃ薄いからね?」

「そうなんだよね〜。みんな、私に靴下履け、ズボン下履けってうるさいんだけどさあ。暑いんだもん」


 いや、100歩譲って薄着までは、まあ道民だからね、寒さには強いんだよね。って納得してもいいけど。靴下は履こうか、義母様。


「長靴が冬靴だからさ、中がモコモコしてて暑くてさー」

「冬靴だからね」

「いや、みんながうるさいから、靴下、持ってはいるのよ」

 ……バッグの中に入れてても、足は暖かくなりませんよ、お義母様。


 

 自分が暑がりで、あまり寒さを感じていないので、義母は平気で裏玄関の戸を開けっ放しで私と話し込みます。

 私は○ートテックを着ているとは言え、上はトレーナー1枚。うちはストーブの設定を21℃くらいにしてあるので(家によっては24℃とか、酷い所になると26℃設定だったりしますが)、南国生まれ南国育ちの私には、発熱下着を着ていないと、十分寒いのです。

 なのに、義母は、裏玄関を開けたまま、平気で長話をする。先述の通り、外気温は、−10℃を下回っています。


「お義母さん、お願い、後ろ閉めてもらえる?」

「あら、涼しいと思ったら、戸が開いてたねえ。ほら、中入らないと風邪引くよ」

 ありがとうございます、お義母様。きっともう手遅れです(泣)。


 きっと、この人と二人では旅行に行けないだろうと、嫁は思うのです。義母は超暑がりですが、私は超寒がりで、一緒の部屋に泊まれる気がしない……。

 

 こんな義母は、風邪も引きません。いや、引かないと豪語している。 

 「39.8℃あるなあ」とか言ってるので、十分引いてると思うのですが、とにかくとにかくとにかく病院嫌い。

 元気なんだか何なんだか……。


 暑がりさんの気持ちはよくわからない嫁なのでした。

 わからないけど、冬場は靴下、履いてね、義母様。

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義母様伝説 緋雪 @hiyuki0714

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