第47話
シュウ(@shu_arm)学校クソすぎだからサボったったwwwくそ真面目に生きる方が損する社会の縮図www
シュウ(@shu_arm)そんなわけで廃屋なう
シュウ(@shu_arm)立ち入り禁止区域は立ち入るためにありますキリッ
シュウ(@shu_arm)ネコいたぁー! 野良だよな? 石投げたら逃げてったザマァwww
シュウ(@shu_arm)弱肉強食を叩き込んであげた俺えらい。感謝されるべき。
シュウ(@shu_arm)この壁というどでかいキャンパスに偉大な名を刻んでやろうと思いまーすwww俺☆見参wwなんちてwww
「これは……?」
ツブヤイッターに次々と更新されているのは、何ともふざけた内容だった。
アカウント名は、確かに秀のものだ。
「やばいよな?」
裕樹に教えてくれたクラスメイトが声を上擦らせる。
すぐにはピンと来なかった。
しかし、彼が指差したコメントや拡散数を見てぎょっとする。
『バカ発見』
『シュウさんがこんなことする人だなんて思いませんでした! がっかりです!』
『フォロワー数増えて調子乗った?』
『おいみんな、かわいそうだから学校特定とかすんなよ。絶対すんなよ』
『しろってことですね分かります』
『学校に行かせてくれている親に申し訳ないとか思わない?』
『見せしめにもこんなバカは拡散されるべき』
『俺はこういうの好きよwwwいいぞもっとやれwww』
『中の写真もっと見たい』
『壁に落書きって器物破損だよな』
『猫に石投げるとか最低。クズすぎ。吐き気がする』
『お前が石投げられてみろよ』
『終わったなこいつ』
中には便乗するコメントもあるが、大半は批判的だ。
――こんなの、彼らしくない。
そう思うのに、裕樹は何を言えばいいか分からない。
「この一連の前はさ、部活のことかな? こき下ろしたりしてて。あとこの学校の奴らのこともディスってるっぽくてよ。シュウ、ただでさえフォロワー多いから広がり方えぐくてやべーよ。最初はまさかと思ったけど、実際にまだ学校に来てねーし……」
「あ、あのね」
ふいに弱々しい声が割って入ってきた。裕樹はとっさに振り返る。
髪にピンクの花のピン留めを二つ挿した、このクラスの委員長。
「本人もいないのに……勝手に言うの、良くないよ。何か事情があるのかもしれないし……ね?」
莉緒は小首を傾げた。一緒にショートの髪がふわふわ揺れる。
「委員長は見てないからそんなこと言えるんだよ。見りゃ考え変わるって。ほら」
「私、ワイフォン持ってないから……使い方よく分からなくて」
「委員長は古風だなぁ」
笑った男に、莉緒は気恥ずかしそうに笑みを取り繕う。
実際、ワイフォンはかなり普及している。持っていない方が珍しい。裕樹の周りでも莉緒くらいかもしれない。
「ほら、委員長も見てみ。これなんて万引き自慢だぜ? こっちはタバコ吸ってるし。絶対やばいって」
「確かに書いてるけど……でも、こんなのシュウ君らしくないよ」
「そうかもだけど。実際書いてるわけだし。委員長ってばお人好しだな」
否定されても、男が気を悪くした様子はない。だが意見を変える気もない。
裕樹はようやく息をついた。話しかけられるのは苦手だ。男の話し相手が自分以外に向いてくれて助かった。
「でもほんと、シュウ、どうしたんだろうな? 連絡もつかねーし……今日休みか?」
「そういや俺、昨日病院であいつ見たわ」
横から答えたのは、鳴瀬昌明だった。クラス全員の視線が集まる。ざわめきが一層強くなる。
裕樹もぎょっとした。病院。秀にはどうも似合わない単語だ。
ざわめきの代表とばかりに口を開いたのは、姫川紗希だった。
「病院って……入院とか?」
「あー……いや。ケガしてる感じじゃなさそうだったぜ」
「ケガじゃなくても、風邪こじらせて悪化してるとか、もっと重い病気とか」
「そんな感じでもなかったっつーか……誰かの見舞いかもな」
「なんだ」
ホッと息をつく。
と。
「おーい、席につけー」
ガラリとドアを開け、先生が入ってきた。みんながわっと自分の席へ散っていく。裕樹も慌てて鞄を下ろす。
結局その日、秀は学校に来なかった。
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