第45話

【猫太マル:おー! 凪太じゃん!】

【花梨:凪太くん、おかえり】

【凪太:久しぶり】

【凪太:テンから連絡来てさ……】

【凪太:嫌になってちょっと離れてたけど、また少しずつやってみっかなって】

【花梨:また一緒に遊べてうれしいよ】

【猫太マル:にしてもビックリだよねー! テンが新しい組織作るなんて!】

【金平糖喰い:でもあっちにいるより気楽にやれて楽しそうだったしな】

【花梨:私たちも新リーダーを支えてあげなきゃね】

【シキ:まあ、新人教育なら任せてよ】

【猫太マル:さすがシキ! 頼もしいなー!】

【花梨:でも、お手柔らかにしてあげてね……?】

【金平糖喰い:いやあ、シキが同じ組織にいるとか今でも信じらんねーわ】

【凪太:しかもこいつ来てから、なんか……クエストの報酬やばくね?】

【猫太マル:わかる! 自分もさっき、レア出た!】

【花梨:私も、装備の錬成が連続で成功したよ】

【凪太:幸運EXって感じ】

【シキ:たまたまでしょ】

【金平糖喰い:テンは今日はまだなのか?】

【シキ:仕事が微妙に立て込んでるんだってさ】

【シキ:でもあと一時間もすれば来るんじゃないかな】

【シキ:あ、今日はシュウもインするってよ】

【凪太:おお】

【金平糖喰い:あいつまた装備がザルだったからな! 見てやんねーと】

【花梨:ふふ。楽しみだね】



 ガラガラと戸が閉まる。

 孝徳は深く息をついた。今日は、珍しく働いた。

 ――語弊がありそうだが、いつもサボっているわけでは、決してない。普段は単に客が少ないのだ。

 しかしここ数日は、大繁盛とまでいかなくとも、定期的に客の姿が見える。おかげで孝徳は暇を持て余すことがない。

 何となく腰を叩く。鈍い響きが心地良い。


「やれやれ……」

「テン」

「む」


 奥から少女の声が聞こえ、孝徳は動きを止めた。


「何だ」

「金平糖喰いがまだかって言ってるよ。もう店仕舞いだろ。早くインしたら」

「無論だ。だがまだ片付けけがある。もうしばし待たれよ」

「最近インが遅いぞって言われてるよ」

「……シキ殿がここに居着いているから、店が忙しいのだ」

「感謝してほしいくらいだね」

「むうう……」


 確かに、店としては良いのだろう。秀の伯父も喜んでいた。だが、複雑な気持ちになるのはなぜなのか。

 耳を澄ませば、カタカタとキーボードを叩く音が絶え間なく聞こえてくる。羨ましい。正直、とても羨ましい。

 顔をしかめながら、片付けを始める。

 と、元気に戸が開かれた。


「テンさんちぃーっす! お疲れちゃん!」

「秀殿」

「シュウ!」


 奥からシキが駆けてきた。彼女は勢いよく秀に飛びつく。

 秀はややバランスを崩しながらも彼女を受け止めた。


「お、シキは今日も元気にゲームだな」

「シュウもやるんだろ? 今日も鍛えてあげるから覚悟しててよね」

「あはー。がんばる」

「そういや、まさまさは? 最近見ないけど」

「あー。ナルはしばらくゲームはいいってさ。元々飽きっぽいんすよ」

「ちぇ」

「あ、代わりってわけでもないケド、今日は祐樹君もやってみるって言っててさ。後で通話しながら色々教えてやってよ」

「あの気弱そうな男? 仕方ないなぁ」

「さんきゅ、助かるー」


 機嫌を良くしたシキが、秀から離れ、また奥へ戻っていく。

 それを見送った秀が振り返った。孝徳と目が合う。ヘラリと笑う。


「テンさんもまたやるんだろ?」

「そのつもりだ。今日はまだインできていないからな。やるべきことがたくさんある。季節限定イベントも始まっているからそれも逃すわけにはいかぬ。それから……」

「うはは情熱パネェ。こんなテンさんに誰がした! ってオレか」

「……そうだな」


 孝徳は、思い出す。

 秀が幼い頃、孝徳は彼を拉致、、しようとした。天狗のさがだったのかもしれない。妖怪が見える彼に興味を持ったせいでもある。

 だが、彼は呑気にも自分と遊びたがった。腹も空いたというので気まぐれに彼の家に戻り、食事をとり――そして出会ったのが、テレビゲームだった。

 そこからは、ドハマリだ。様々なゲームにのめり込み、今に至る。

 孝徳の生き方は、あのときを境に、大きく変わってしまった。


「私は、初め、ゲームそのものにも感激したが……秀殿と遊ぶのが楽しかったのだ」

「テンさん?」


 きょとんとした面持ちの秀。

 孝徳は笑った。彼の頭をくしゃりと撫でる。

 何気なく問われた彼からの問い。

 なぜゲームをするのか。なぜこのゲームにこだわるのか。

 思うことは多々あれど。


「今では他にも、掛け替えのない仲間ができた。ここで出会い、ここで戦った仲間だ。一癖も二癖もある者たちだが……彼らと遊ぶことは、とても楽しい」


 架空の、現実には何も残らない世界だと言う人もいるけれど。

 そこで感じたこと、得た仲間、これらは確かに孝徳の中に蓄えられている。

 だから。


「だから私は、今日も戦うのだ」


 愛おしい、零と一で構築された、この世界で。

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