第40話
意識が浮上すると同時に立ち上がっていた。
ガタンと後ろに椅子が倒れる。
同じタイミングだったのだろう。ガバッと顔を上げた秀と目が合った。
「秀殿……大丈夫だったか」
「お、おう……すぐやられちゃって朦朧としてたケド、大丈夫みたいっすね。ケガとかはねーや。なんもできなくてマジ申し訳ねーケド……」
ふー、と秀は息をついた。軽く頭を振る。
それから彼は苦笑して昌明へ顔を向けた。
「ナルも変なことに巻き込んでごめんな。……ナル?」
昌明は、起きてこない。伏せたままだ。
「おい、ナルってば」
見かねた秀が、昌明の肩を揺さぶる。ゆさゆさ。初めは遠慮がちに、次第に強く。
「ナル! 起きろって……!」
孝徳は昌明が使っていたパソコンを見た。画面が砂嵐のようになっている。どうにも嫌な感覚だった。
「昌明殿はどうしたのだ……?」
「わかんねぇ……全然起きない。息はしてるし、……ケガもなさそうだケド……」
秀の口調に不安が混じる。いつも快活な彼には珍しい。
孝徳も椅子を戻し、二人の元へ歩み寄った。昌明に触れる。首。腕。手首。
「確かに息はしているな。多少体温は低いが、脈も安定している。寝ているだけのようだ。……だが……」
「――人間の仕業じゃなかったな」
ポツリと秀が呟く。
ああ、と答える孝徳の声も重かった。
「ゲームの世界に引きずり込むなど、人間業ではない。そして昌明殿が謎の意識不明。もしかすると、ゲームをやめていった者たちの中には昌明殿と同じ症状の者もいるのかもしれない……」
「意識がなきゃ、ログインすらできねーわな」
「そういうことだ」
「……妖怪、かな」
「……可能性はある。やはり、もう一度シキ殿と接触せねば。被害が広がることはあれど、時間が経てば解決する代物でもなかろう」
孝徳は窓の外を見た。
いつの間にだろう。日は落ち始めていた。押し寄せてくる茜色が、何だか不安だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます