第7話

 だらだらと汗が止まらない。

 照りつける太陽から逃げるように、祐樹はグランドから校舎へと小走りに向かった。

 体育の時間も長袖で、周囲からは余計な目を引いた。秀がまた話しかけに来たが、正直、会話は覚えていない。彼と話していると自然と自分まで注目される。ただただ早く逃げ出したかった。

 教室に着くなり着替えを手に取り、トイレに向かう。「石井、お前女子かよ」とからかい混じりの声が飛んできたが、祐樹はそれに応えなかった。

 足早に廊下を走り抜け、トイレのドアを開け、一番奥の個室へ。

 じくじくと痒みにも似た違和感。それが止まらない。

 祐樹は流れてきた額の汗をそっと袖で拭った。じんわりとジャージにシミができる。それとはまた別に、腕には二カ所のシミが――。


 二カ所?


 恐る恐る、祐樹は袖をまくり上げた。

 今朝見たところと同じように目玉がこちらを見ている。うっすらと膜を張っているのか、それがジャージにくっつき、シミを作ったらしい。ソレはゆっくりと瞬きを繰り返す。そのたびに、皮膚が引っ張られ、ピリピリと肌を刺激した。じっと責めるように見続けてくるこの目は、一体、何を訴えようというのか。


(何で……)


 さらに袖を捲り上げ、祐樹は全身から血の気が引いていくのを感じた。今朝は手首だけにあった目玉が、さらに、一つ。肘の方にもできている。やはり祐樹を責め立てるように視線を向けている。

 ふらりと、祐樹はよろめいた。震える手で個室の戸を開ける。

 逃げ出したかった。

 どこからなのか、どこへなのかも、分からないけれど。


(何で、増えて、何で)


 よろよろと入り口へ向かう途中――ビリリと、痛みが走る。今度は左の首下だった。考えるより先にトイレの鏡へ視線を走らせる。

 赤く浮かび上がった痣。切れ目のようなそれは、じわじわと色濃くなっていく。みるみると、ずくりと、その切れ目は膨れるように盛り上がり、裂け、そして中から白い――


「うわあああああ!!」



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